映画初心者

チェンソーマンの映画初心者のレビュー・感想・評価

チェンソーマン(2022年製作のアニメ)
3.8
中山竜初監督作品。賛否両論を巻き起こす作品だったと思います。非常にゴージャスな映像化であることは間違いなく、若手アニメーターが集結して熱が入ってる様子もわかります。どうなんでしょうね...原作の強みが結構目減りしてしまっている印象です、それでも8話は素晴らしかった。

【オススメ話数等】
6話、8話(特に8話)
4話早川家の朝パート、12話ラストのベランダ

原作既読です。原作はストーリー的な強みよりも演出のべらぼうな巧さにあると思います。巧みなコマ割りを駆使して雰囲気作りをしている。明確で論理的な話の構造でないが故にアニメ化に対して相当な演出力が無いと厳しいと思わされる、そんな出来でした。

枚数をかけすぎたアニメーション、テンポやスケール感がいまいちなコンテ等々で、明確に演出力が乏しい作品でした。特にギャグ一連はメリハリが無く滑り散らかしている。作画の出来以上にコンテの出来が重要だとわかる作品。

監督の実写的抑えた方向性はオリジナルパートで良さが出ていると思いました。4話の朝のシーン、12話のベランダのシーン。監督がやりたいことはとても上手くできている。世界の音が静かに響いている静寂な空気感がとても良い。一方で原作にあるシーンはそれが上滑りしている。原作と監督の方向性がずれてしまっていました。監督はチェンソーマンよりもIGがしそうな作品で監督しておいた方が良かったと思いますね...

全話数の中でもずば抜けていたのがgossoさんの回、8話。これが素晴らしい。原作の魅力と1番近い回でした。ギャグも細田守のような1コマで見せる、音楽をぶつ切りにして銃を鳴らす。演出が細部までいきわたっていて良かった。

音楽、牛尾さん。原作には無い「音」の要素を拾い上げていましたが、BGMのレパートリーがあまり無く、彼のベストワークでは無かったです。牛尾さんと言えば、ピンポン、デビルマンと湯浅監督とのコンビが好きです。

各話EDが歌も映像も違う実験的な作り。ほぼアニメーター見本市な状態でしたがとても良かったと思います。本編でう~んと思ってもEDは魅力的な映像、しかもバリュエーション豊富な映像が多く視覚的に豊かでした。

OPはあまり好きではないです。「映画オマージュ」ではなく「映画パロディ」になっている点、流行りもののコスプレをする学生のノリのようで、映画に対する愛というよりもただのファッションに感じました。

【総評】
演出力がずば抜けた原作を映像化することが困難だったと思います。気合が空回りしている感じが否めない。監督がやりたい実写的な作りは4話と12話で達成していましたがそれ以外が上滑り、6話と8話、特に8話が素晴らしい出来でした。


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以下、各話感想


【OP】
山下清悟氏(以下、yamaと省略)が担当。yamaさん作品の撮影とアクションシーケンスは凄いなと思いました。yamaさんは最近だと漂流団地の撮影や王様ランキングのOPも担当されていましたが色味がわかりやすい上にとてもリッチで"映像作家"を感じて好きです。映像の曲も相まって印象深い、特に未来最高のカットは、原作では想像できないパリピで派手な色なんだと思い好きです。
ただ自分としてはOPとしてどうなんだろうとは思います。各所に配置された映画ネタは作品の顔であるOPとしてノイズになってしまっている気がしました。OPを見てどんな作品なのかが理解できない。原作既読済みでもなんだこれとなってるので初見の人が見たらどう思うのか気になります。

【1話】
彩度を抑えた画面作りと作画枚数の多い演技でずっとリッチなアニメだなぁと思いました。とりわけ音周りが良いですね。中盤では音楽の重低音さ、終盤バトルシーンでチェンソーの回転量の変化で周波数が高い音がする。特に後者は原作では出せないニュアンスなため映像化して良かったなと思いました。
追記:バイク好きの人からは中盤の犬の音がチェンソーじゃなくてバイクの音に聞こえるという指摘は笑いました

ただやっぱり引っかかる部分が散見されます。
- コンテ
冒頭から複数カット主人公の顔を映さないシーケンスが続きますが、主人公の顔がようやく映るショットは印象深いカットになっていない。真正面顔を映して主人公の顔を観客に強く認識させることが定石なんじゃないのかなと思います。また、中山さんお得意のアクションシーケンスは大半が素晴らしいのですが画になるカットが不足していて、原作では宗教画のようなバトルシーンがただの俯瞰ショットになっていたりと残念。アクションでも主人公が散乱したゾンビをどんどん切り殺すところも少し引いたカメラだとシュールというか見栄えはあんまりしない気がしました。
- CGや作画枚数
これは露骨に不評だったんじゃないでしょうか。CGが浮いてしまっている。静止画単位でも浮いているので画面に馴染んでいないのもそうですがとりわけモーションだと思います。シンエヴァのアスカがシンジに無理やり食べ物を食べさせるシーンが良い例ですが、異常に枚数が多くなるとリアリティが失われる。1話では、主人公が刺され全身が映ったまま移動するカット、バトル後のチェンソーマンが周囲を見渡すカットが浮いているように見えました。
- 物語
原作でもそうでしたが1話として弱い。主人公と犬の友情を全く描けていないにも関わらず"奇跡"のような展開が起きる。唐突に感じるんですよね。それがそのまま映像化すると、その問題点は分かりやすくなるなと思いました。

【2話】
1話のダークで重々しい雰囲気から一転、よくある普通のアニメのようなポップな雰囲気に変化。本部の美術と音楽が素晴らしいですね。原作だと本部の雰囲気がいまいち掴めなかったのですが、アニメでは美術によって少しひんやりした空気を漂わせていて良かったです。そして、音楽は牛尾さんがとてもいい仕事をしていると思う。湯浅デビルマンの頃と同じく重低音を意識させる音楽で世界観に合っている他、いわゆるノリが良いBGMが多くて聴覚として楽しい。股間の殴った途端に流れ出すBGMは面白かった。お話としてこれ以降も導入部分が続き若干退屈になると思いますが、筋肉の悪魔をスキップするなどガンガン進んでいく制作者たちの意図はわかりますし好感が持てます。デビルハンターの必死の「なまこ」セリフは笑えました。

少し引っかかるところとしては3つ。パワーが初登場する際の髪のなびき。あまりに枚数が多く動きがもっさりしている。60fpsにしたアニメのようで違和感でした。そして冒頭の公園の美術。のっぺりした美術で切り貼りしただけで作ったように思える。冒頭で美術が思いのほかイマイチだなぁと思いました(本部に入ってから一気に美術のレベルが上がって満足でしたが)。最後に、「エッチ発見」のテンポは個人的に細田守監督のデジモン第1作における「うんち出た」と同じテンポにして欲しかった。パラパラめくるギャグの前振りが長く、「エッチ発見」がギャグとして感じにくい。
2話は1話と比べてだいぶ良かったと思います。絵コンテ的にも引っかかる部分は少なくなりました。原作の空間の切り取り方の方が好きなのはもちろんなのですが、アニメだと画面比率が固定されるため致し方ないと割り切ります...

【3話】
田中さんがコンテ演出。タイムラインでは絶賛ムードでしたが自分としてはいまいち。Bパートに集中して絵が強いカットが多くでてきて楽しいです。しかし、アバン・Aパート・戦闘シーンとどうも面白くない。アバンは間を使い過ぎてもちゃつき、Aパートは適度な間があっていいものの、アバン同様にもちゃつきすぎてるカットもあった。戦闘シーンは作画は凄いものの、見せ方がイマイチ、蝙蝠の悪魔とチェンソーマンとの戦闘で画面が窮屈で疾走感や迫力が感じられなかった。唯一チェンソーマンに変身するシーンが良かったが、それ以前と以後はテンションを低く見ていた。戦闘シーンではそもそもロケーションが映像映えしないのかもしれない。どうせなら、橋がかかった川辺でバトルして、橋の上でチェンソーマンがFLCLオマージュするみたいなことをすれば、OPと比べてずっと正しいオマージュの使い方ができたのではと思います。

【4話】
1話から3話まで一番良かったです。「夢バトル」以降のバトルシーンと、早川の朝描写が良かったです。特に、朝描写に関しては雰囲気がとても良く出ていて監督がしたい方向性とマッチしている気がしました。今までアクションが窮屈に思えたのですが、夢バトルのところは窮屈さを感じず良かった。ただ、毎回変に枚数をかけすぎていて違和感があるカットや、ギャグパートでさえ枚数をかけて面白くなくなっている気がします。監督がギャグパートを抑制した仕事をしていると内部スタッフからの声もあったので、監督のやりたい方向と原作の雰囲気がミスマッチングなんだなと。

【5話】
ついに銃の悪魔の設定が登場。銃の悪魔パートは原作のイメージよりもぐっと彩度が高い新鮮なものでした。家が破壊されるシーンは唐突でギャグっぽくなってしまっていた気がする、爆笑した。EDの映像がとても良く、さすがの一言。今のところED映像で1番好きです。監督がギャグを抑制しているという割りに5話は頬に汗の表現があったりとギャグ調。監督がコントロールしきれていないかもしれません、それぐらい今までの話数に比べてポップ、原作に近い雰囲気を感じました。

【6話】
ベストです。榎戸さんの担当回。原作並み、もしくは原作超えだったと思います。原作の中でも少し中だるみを感じる話数でしたが、アニメ版ではテンポのメリハリで魅了された。閉塞感・緊迫感のある現在パート、少しノスタルジックな回想パートどちらも良い。そして、回想パートのベランダのシーン、BGMがとても良く雰囲気が出ていた。ギャグも原作通り面白く、監督によるギャグの制限(額に汗など漫画的表現をしない)はどうなったんだと思いました。話としての引きも良く、素晴らしい。

【7話】
6話が良すぎただけに7話は微妙でしたね。いつものアニメ版チェンソーマンという感じです。作画はもちろん良いですがあまり演出が機能しているように見えず、ギャグ描写でもあんまり笑えない。ギャグが上滑りしてしまっている感じがします。原作でもあった永久機関バトルシーンは映像では映えないのでやっぱり戦闘シーンも魅力が足りず、いっそ戦闘シーンはバッサリ切るぐらいの方が良かったのかもしれない。

【8話】
gossoさんの回。ベストです。8話以前は変な箇所に枚数をかけて演出が滑っていましたが今回はそんなことは無くしっかりとした作りでした。冒頭から3DCGを駆使した画作り、彼女の日常動作が丁寧に描かれていました。この冒頭によって後半の展開が活きてくるためお話として映像としてとてもしっかりした作りだと思いましたね。そこから襲撃シーン。原作のニュアンスを完璧にくみ取りながらオリジナル描写で良かった、そうそう音楽が鳴って銃声になった途端に無音になるのよねと。蛇丸のみからの瞬間で消えてしまう表現は「ダイナゼノン」の五十嵐さんの回を直近だと連想します、良い表現。とても満足した、原作で読んだ際のイメージに最も近い回でした。

【9話】
3話に続いて田中さんのコンテ回。田中さんのコンテ、全然自分の感覚と違っていて合わない。テンポがもちゃっとしていて変な間があります。原作では劇的でどんどん進んでいく感覚だったのに、凄いスローペースに感じる。マキマが死んでないのわかってるのに、なんで足元をじっくり見せてるのか等、映像に対してどう考えてるのか全然読み取れないものでした。マキマさんの人間圧縮も静かにじわっと見せるんじゃなく、ガンガンと人を殺すテンポで見せて欲しかったな。

【10話】
原作でも割と好きなエピソードですが全然面白くなかった。ギャグは間が重要で間がねっとりしてるせいで滑っている、カットを割ることでより「面白いことを言いますよ」と強調している感じでより一層興ざめしてしまう。世間的には「脚本」が重要と言いますが、やっぱり映像がちゃんとしていないといくら脚本が良かろうが悪いもんは悪いのです。
アクションとしても見応えが無く、なんなんだろう。とりあえず強調したいシーンで変に枚数を使う演出を辞めて欲しい。

【11話・12話】
11話はあんまりでしたが12話は良かったです。原作にはないベランダのシーンが特に空気感を感じさせていい。レクエイムのシーンでは、サイレンが鳴り響いており、漫画には無かった現場の雰囲気を感じさせてくれたのもまたプラス。電車のシーケンス一連はカッコよかった。阪急電車でチェンソーが大暴れしてるのは面白いです。
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