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幽☆遊☆白書のmのレビュー・感想・評価

幽☆遊☆白書(2023年製作のドラマ)
4.8
実写Netflix版「ワンピース」が成功した事にも驚愕したけど、それに続けてこの実写Netflix版「幽☆遊☆白書」がまさかまさかの傑作になっている事には心の底から驚嘆した。
まず個人的にはこのドラマは『幽白の実写版』というよりも『月川翔監督の最新作にして最大の娯楽大作』という点が見る前から重要だった。そして全話観て確信したけど、黒沢清監督の正統後継者(?)は間違いなく月川翔監督だし(実は東京芸大大学院出身者だからね)、日本娯楽大作映画の未来を担う最重要人物も間違いなく月川監督だ(とアクション監督の大内貴仁氏)。

例えば第1話、話題になっている北村匠海が子供を助けてトラックに轢かれる(本当に文字通り轢かれる)強烈な事故死シーン。あれを1カットであそこまでやるのは大内アクション監督の意図だけではなく、むしろ月川監督の強い意志である事が「響 HIBIKI」を始めとする月川監督の作品を観た人には分かるはず。「響」で平手友梨奈が屋上から落下するショットの、あの落ちてきて木に引っかかりながら地面に墜落して更にムクっと起き上がり『びっくりしたぁ』と言いながら去っていくまでを1カットでやる、あの黒沢清イズム(同じく「響」クライマックスのあの電車の素晴らしいショットにもそれはある)。同監督の「スイッチ」の階段突き落としショットでもそれはあった。
月川監督のこの映画的感覚と、ハイローシリーズで鳴らしてきた大内アクション監督の優れた技術・センスが見事に合わさって、シリーズ全体で素晴らしい相乗効果を生んでいる。


ハイローシリーズを経た大内アクション監督によるアクション・シーンの数々はどれも最高で、特に1・2話のアクションが素晴らしい。ほんと凄いと思うよ。


アクション・シーン以外でも月川監督の才覚は活きている。例えば第1話冒頭の幽霊になった主人公が自分の死体が救急車で運ばれていくのを目の当たりにする長回しショット、主人公が幽霊である事を驚きと共に明示するのは死体との対峙以上に突然閉められる救急車のバックドアを主人公がすり抜けてしまうあの瞬間だ。
芝居の撮り方にしても、カット割は的確だし、長回しする時のカメラと人物の動きも見事に巧い。ここは監督だけでなく、山田康介カメラマン率いる技術部の功績もある。


月川監督の才能はこうした映像演出面だけではなく、演技のコントロールにも現れている。日本特有のクサい過剰演技は一切無し、それでも正直コスプレチックな衣装の登場人物達の演技にはフィクションとしての生きた血がしっかり通っていて、だからこそ実写化するには荒唐無稽極まるこの物語やキャラクターに観客をきちんとノセる事ができている。その辺の他の日本映画よりも遥かにまともに真っ当に芝居が構築されコントロールされ血が通っている事に感嘆する。


「東京リベンジャーズ」シリーズですっかり不良役も板に付いた北村匠海は大作の主演足り得る存在感と魅力、そして鬱陶しくない程よい熱さを放っていて良い。というかそもそもまさか浦飯役に彼がここまで合うとは思わなかった。
ここまで合うとは思わなかったという点での最大の驚きは桑原役の上杉柊平で、最初にスチールを見た時はこれはもう終わったと思ってしまったけど実際観てみると面白い事に完璧に役にハマっている。いや凄いね。

本郷奏多はオタクらしく照れを知らない2.5次元
演技を見事完遂。志尊淳はちょっとギリギリかな。

「PRINCE OF LEGEND」でも『一見普通の女の子なのに実は芯が滅茶苦茶に強くて太い、おもしれー女(の子)』の役が物凄く合っていた白石聖が今回も一見普通の少年漫画的ヒロインなのに実はめちゃくちゃに芯が強い女の子を強く好演。何しろザコ程度の敵なら柔術技で締め落とすヒロインなのだ。彼女の行動がたぶん原作より強くなっているのも現代的な感覚がキチンとあって良い。

町田啓太と梶芽衣子の完璧なハマりっぷり・本人の巧みなハメっぷりは素晴らしい。ハマりっぷりで言うなら原作をもはや超えているのが稲垣吾郎で、あの大傑作・三池版「十三人の刺客」での日本映画史に残る悪役っぷりを彷彿とさせる虚ろで実在感のある奇妙な悪役っぷりを見せつけていて彼のキャラは原作を超えた。

原作からだいぶ離れたのはぼたん役の古川琴音で、ぼたんという役の異質感を古川さんの個性の異質さで体現させようという試みは面白いのだけど古川さんとフィクショナルな芝居の相性がちょっとスレスレではある。

雪菜役の見上愛は「往生際の意味を知れ!」でも発揮していた妖艶さと同時にピュアネスも放っていて、まさに適材適所。

こういう役だと過剰演技をしそうな滝藤賢一の過剰さを抑え切った事に月川監督の才能が見える。そしてキチンと監督にコントロールされた滝藤さんの芝居は良い。

いくら綾野剛がなんでもできるとはいえ、なんぼなんでも戸愚呂弟役は無茶させすぎでしょと思ったけど、完璧に仕上げてきているのが流石綾野剛。彼のラストではちょっと感動さえしてしまう。恐るべし綾野剛。


それからVFXがめちゃくちゃ頑張ってた事はやはり書いておくべきだと思う。


ロケ地がうちの地元の対岸である下関ぽくて、あの島がうちの地元と下関の間にあるのはなんとなく納得。日本であるならあそこら辺だよね。魔境・・・



最終話では「宇宙戦争」のスピルバーグ演出オマージュまで見られて愉しい限り。あーここで「微笑みのバクダン」流れれば完璧だったのにというのはちょっと思ってしまった。
シーズン2を作って欲しい気持ちもありつつ、月川監督にはもっともっと色々な作品を撮って日本映画界を少しでもマシにしてほしい気持ちもある。
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