ひば

五月の青春のひばのレビュー・感想・評価

五月の青春(2021年製作のドラマ)
5.0
お察しのように、現代の光州建設現場で発見された一人の遺体から始まる80年代の5月の青春。花の下で座って話をした日。留学の夢が叶ったこと。運命を感じた恋。常態化した民主化デモに参加し時にデモも楽しみつつ思想をこえ繋がる人たち。家族の不仲に抱く普遍的苦痛。友情を育み練習を抜け出し漫画をこっそり買う冒険に。放課後一緒にケーキを食べ語りに。代わり映えしない仕事の帰り道に。突然人生が終わるか、それとも迫る死に備え終わるか。たっぷりとありふれたきらめきを描いてから移行するので酷いダメージだ。途中から『ワンダビジョン』が始まって泣きました。恋愛1つの代償に夢もろとも駄目になった人たち、のスケールが急に膨張し追い付けなくなる。思想のグラデーションが一気にツートンになる。視聴者には輝いてた記憶しかないのに次のシーンでは血だらけで倒れてる、死んでる、という情緒のなさ呆気なさが続くので心にくる。そういえばあの人はどうなったのかとの気持ちも淡々とシャットアウトされるし、実際人って情緒なく劇伴もドラマチックさもなく死ぬので、そういう死が重なってくるとこっちも心を守るため愛すべきキャラたちへの込み入った感情が消えていくのがわかった。わたしにとって永遠に幻の男、イドヒョン。
デモとは暇な大学生のお遊びという1つの層、そしてさらに下の層には当時叩き上げ世代ばかりで富裕層に厳しく、デモに参加せず大学に"通うだけ"の医学部が同級生から疎まれるという内実がある衝撃の始まり。新聞のデモ隊に解散を促した記事に「ほんとに自然に消滅したのか?」と疑うようになる。日々に浸透していた夜間外出禁止によって病院から出られなくなりもう一日もう一日と包囲されていく過程、外部から遮断された病院に運ばれてくる急患が打傷、刺傷、銃傷と徐々に変化していく不穏さ。10話のタイトルが善偽善最善。ワクワク大冒険みたいなBGMで光州に行くな。『1987』『タクシー運転手』『ありふれた悪意』などをぐっと拡大した内容。疑問を抱きつつ現地に入る軍人の姿もまた良い。信念を託され人の間を縫っていく時計や、「先生を殴るな!」と勇気を出して言った学生、天気が悪いからとか適当な理由で室内に誘導し鍵をかけ保護者からの電話対応のためずっと電話前で筋トレしてるコーチという些細かつ余地がない描写が良かった。だせえ曲と評したクラシックが最初と最後に流れ変わる印象もシームレスで良かった。ジナちゃん、泣き方が小学生で超かわいいんだよ。当時の学生の40年後なんて全然バリバリの人生現役だよなと思い知らされました
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