オレオレ

チェルノブイリのオレオレのレビュー・感想・評価

チェルノブイリ(2019年製作のドラマ)
5.0
一言で言うと、圧倒的な作品でした。

1986年に起きたチェルノブイリ原発の爆発事故のソ連(当時)側顛末を描くドラマで、科学者、政治家、中央組織、現場技術者、始末にあたった消防士や軍人(予備兵?)の視点から描かれる。前半は事故発生から火災やメルトダウンの被害を食い止めるための時間との闘いを、後半は事故原因と責任者を追うドラマになっているが、それぞれで「ソ連の価値観」が立ちはだかる。

まず、偉大な国家ソ連でこのようなカタストロフィが起きるはずがない(impossible to happen)、と事故の規模を否定。いや、impossibleって実際起きてるし。なもんで、当初は事故そのものが伏せられ、のちには事故の規模が過少報告される。事故現場のリモート操作ができるロボットがないので渋々ドイツから借りるが(アメリカからは死んでも借りない!)、ロボットを使う場所の放射線量を実際より相当低い値でドイツに言って借りてきたため、ドイツのロボは投入後一瞬でぶっ壊れる。ソ連・・・。
しかし、瓦礫除去は必要なのでどうするかというと、これが人海戦術。防護服(ここでやっと登場。爆発現場で誰も防護服着てなくてめちゃくちゃヤキモキさせられる)を着せられた若者が一人90秒の持ち時間で瓦礫を除去させられる。地面のコンクリだか黒鉛破片だかに足を取られた一人は、防護用ゴム長が破れてしまい・・・こういうエピソードの挿入が全編を通して利いている。

後半は、科学者が原因究明に奔走、事故発生の危険性を指摘した論文が隠蔽されたことによる人的災害だと発見するが、果たしてそのことを、現場責任者3人の裁判時に証人として発表するか否か・・・もちろんここはソ連。国が論文を隠蔽した、などと発言すればどうなるかは目に見えている。ただ、その不具合をもったまま多数の原発が現在も稼働しているのも事実。

前述の人海戦術や言論統制とKGBの監視など、ソ連ってすごいよなー、と思う反面、これは本当にソ連だけの話か?と思えてくる。ウクライナ侵攻が「正義」として受け入れられているロシアはもちろん、政府の書類の改ざんや「紛失」が発生するのは当たり前の日本、言論の自由と声高に言いながら、エドワード・スノーデンが暴露した監視システムを持つアメリカ・・・。チェルノブイリと同じような情報の隠蔽工作や、「お国のため」という圧力で人柱にされた作業員といったことが、福島で起きていなかったと言い切れるのか?

そして、放射能被害の現実と、現在進行形でその恐怖にさらされているザポリージャ。広島や長崎、福島やウクライナの人のことを考えるといたたまれない。プーチン、今こそこのドラマを見るべし!・・・って、西側諸国のウソ、で終わるんだろうけど。