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北斗 -ある殺人者の回心-のkuuのレビュー・感想・評価

北斗 -ある殺人者の回心-(2017年製作のドラマ)
3.8
『北斗 ある殺人者の回心』
製作年2017年(原作2012年出版)
#1~5(全5話)60分。
虐待を受け続けた孤独な少年はなぜ殺人犯となったのか。
直木賞作家・石田衣良が『デビュー15周年の結論』と自負する渾身作を中山優馬主演で連続ドラマ化。
出演:中山優馬、松尾スズキ、村上淳、中村優子、伊藤沙莉、二階堂智、根岸季衣、利重剛、矢島健一、大西利空、占部房子、大和田健介、山田杏奈、藤田弓子、嶋田久作、宮本信子。

『僕を、死刑にしてください』―2016年3月、殺人を犯し勾留されている20歳の端爪北斗は、国選弁護人の高井聡一にそう言い放つ。
実の両親から激しい虐待を受け、愛に飢えた少年時代を過ごした北斗はやがて養護施設へ。
そこで里親となる近藤綾子に出会い、初めて“愛”というものを知る。
しかし、運命のいたずらはまだ彼を解放してはくれなかった。 数奇な運命に翻弄され、残酷な日々を過ごしてきた彼に下る『審判』とは。

ある青年の虐待の物語。
この世に生まれ落ち、幼稚園に上がる前から、虐待を受ける。平手ではなく拳で。
愛を知らず、優しさを知らず、恐怖と暴力の中でのみ育ちゆく。
父親からの殴る、蹴るは当然で、また母親も子をかばえば自分が殴られる為に、父親以上に子を虐待する。
固く捻られた針金のハンガーで執拗に叩き殴り、腫れ上がった傷口の間に更に叩き込む。ミミズ腫れに身体が変形してゆく。
そこから冬の寒空に裸で外に出される。
そんな幼少期から、小中高生と事細かに、虐待の連鎖が描写されてゆく。
主人公が高校生になった時、父親が精神を患い入院、さらにそこから病死。
父の死により一時的に虐待の嵐が止むも、暴力に依存していた母親が、今度は虐待されていた子供に虐待していた夫の役を望むようになる。
このままでは、いつか母親を殺してしまうと児童福祉司に相談する。
結果、主人公は養護施設に預けられ、ある里親に出会う。当初は、大人を信頼できず、里親を試す行為に走るが、心通じ、愛や温もりを知る。
不幸は突如やってくる。穏やかな時間は続かない。そんな信頼できる初めての大人が悪性の癌を患う。
懸命に介護をする最中、里親の友人が、縁戚の胃癌が治ったという胡散臭い水を持ってくる。
薬の投薬でもの食べれなくなり、口に出来るのは水だけになり、中でもこの水だけは美味しい気がすると里親は欲する。
一本数万円の水を。
里親はその値段を知らず、主人公は里親が自らの大学資金や生活費に充てる為の資金を切り崩し、水を購入してゆく。
金も底をつき始める。
ある時、その水が医療詐欺だと気付いてしまう。
不幸の連鎖はまだ続く。。。
と、ここまで運命に翻弄されまくりな主人公なんだが、この後の堕ち方が壮絶。
全編を通して虐待について、どう思うとかではなく、善と悪そのもの、法律、裁判制度、被害者、加害者、一体何が正解なのか、答えなんか無くて、人間社会が勝手に作り出した概念で、なんて、頭が混沌としてゆく。
あくまでもフィクションやけど、限りなくノンフィクションに近い重厚な作品でした。
流石!石田衣良原作。
その原作に必死に演じきる主演の中山優馬には天晴れ。
以前たまたま、彼のラジオ番組を聞いたことがあって(失礼ながら)ジャニーズアイドルとは思えないトーク進行力で興味を持ったが、現在は舞台がメインのようで彼の動く作品を見たのは初めてでした。
今作品の役作りのために20日で12kg減量、撮影中は私生活も孤独に徹し、クライマックスの撮影期間は睡眠時間を極限まで削って挑んだとのこと。
ほんと、物語の時期によって別人のように変化していた。
それほど過酷で難しい役でしたが、いい意味でジャニーズらしさを微塵も感じない演技で素晴らしかった。
終始重く辛いシーンばかり続きますが、里親の愛情に満たされたひと時の暮らしぶりや、北斗を助けようと奔走した大人が少ならからずいたことに救われます。
殺害罪は、犯人にどんな背景があったとしても、犯人がどれほど悔やみ償い続けたとしても、決して誰一人にも許されてはいけない罪だと小生は思っています。
せやけど、被害者の人数が争点になる『永山基準』や、死には死を持って裁く日本の死刑制度については、深く考えさせられる作品でした。
辛いシーンが多く心身ともに体力を消耗しますが、見ごたえのある良作品でした。
長編だけども途中で止められなかった。
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