ヨーク

屋根裏のラジャーのヨークのレビュー・感想・評価

屋根裏のラジャー(2023年製作の映画)
3.7
個人的にスタジオポノックは応援したいと思っていて、正直なところ名作を作るよりもまずはヒット作を作ってほしいと思うくらいなんだけど、本作『屋根裏のラジャー』もどうも初動の観客動員は厳しいらしい。興行に関してはポノックに限らずどこのスタジオも四苦八苦して何とか生き延びているような状況なのだろうが、しかしもうちょい客入ってほしいよなぁと思いますね。
そこは本当に正直にそう思うよ。えらい映画賞を獲るよりもまずは売れる作品を作って、スタジオの運営自体を安定させてほしい。それは本当にそう思うのだがスタジオポノックの過去作である『メアリと魔女の花』のときもそうだったんだが、売れてほしいという思いとは別に、大絶賛して必見だからみんな観ろよな! って言うほどの作品でもないんだよな…。そこは本作『屋根裏のラジャー』でも同じで、悪くはないんだけど激推しするほどでもない…という感じでなんか惜しい作品なんだよな。
あらすじも最高とは言わないが別に悪くはないんですよ。父と死別したある想像力豊かな少女はイマジナリーフレンドを生み出すんだけど、実はこの世界にはイマジナリと呼ばれる存在がいて、そのイマジナリーフレンドにはイマジナリの中のルールがある。共生することはできるがやがて子供はイマジナリのことを忘れて大人になり、イマジナリはイマジナリたちの世界へと行くことになる。だがそんなイマジナリを食べてしまう存在が現れて少女のイマジナリであるラジャーが狙われる…というお話ですね。
イマジナリーフレンドというと、実は俺には心当たりがあって、確か20代の最後の頃か30歳になったすぐくらいの頃に実家で地元の友人たちと家飲みしたんですよ。幼稚園から中学まで同じだった4~5人くらいと飲んだんだけど、そういう面子で飲んだら当然ながら話題は昔話になりますよね。あのときはこうだったとか、こんなことがあったよな、とか。んでその流れであいつは今こんな仕事をしてるとかあいつは結婚したけどその後離婚したみたいな話をしているときに俺が幼稚園の頃によく一緒に遊んでいた女の子の名前を挙げたんですよ。そしたら盛り上がってたみんなが一気に黙り込んで怪訝な感じになり「誰それ…」と俺に言うわけだ。「いや〇〇ちゃんいたじゃん! よく一緒に遊んでたじゃん!」と言っても誰も覚えていない。俺の記憶では彼女は年長組に上がったタイミングで引っ越したから卒園アルバムにも載っていないんだけど、絶対にいた! と俺が言い張っても誰の記憶の中にも彼女はいなくて最終的には俺のイマジナリーフレンドということにされたのであった。俺的には未だに納得いってなくて彼女は実在していたと思うのだが今となってはどうしようもないかもしれない。
それが映画の感想に何か関係があるのかというとぶっちゃけ特になくて、何となく思い出したから書いてみただけなんだが、しかしそういう経験のある俺だから本作はめちゃくちゃ刺さるだろうし何なら号泣してしまうかもしれないと構えながら劇場へ行ったのだが、結果としては最初に書いたように、悪くはないが…最高とも言えない…! くらいのちと微妙な感じだったのである。ストーリーもキャラクターも作画も演出も音楽も全て悪いと言い切れるほど悪いところはない。だがその中の一つでもぶっちぎりで素晴らしいという部分もなくて、それが全体的にのっぺりした印象になってしまうのかもしれないと思った。全てにおいて堅実であるというのは良いことのように思えるけど、やっぱ他の何かを犠牲にしてでも突出した何かがあった方が心に残る作品にはなるのではないだろうか。個人的に線画を含めた人物の動きの作画というよりももっと大きな全体の画の雰囲気というは児童文学風な挿絵の雰囲気があってかなり素晴らしいと思うのだが、それが集客のメイン武器になるかというとやっぱ地味だよなぁ、とは思ってしまう。
そうなんですよねぇ、難しいところなんだけど俺が一番最初にポノックを応援したいと書いたのもそこが一番の理由で、児童文学を原作にして絵柄や雰囲気そのものも含めて、そういった子供向けのアニメーションを意識した画作りをしている劇場版のアニメスタジオっていうのは日本のアニメーション作品全体の幅広さを担保するためにも絶対にあった方がいいと思うんですよ。90年代から00年にご存知ジブリがその部分の多く(全てではないが)を担っていた部分を継承するスタジオはやっぱ必要だと思うんだよな。ジャンプアニメや深夜アニメにしか興味がない人は別にそれはそれでもいいんだけど、人によっては(何でこんなつまんなそうな作品やってんだろ…)と思われてしまうようなものがちゃんと存在しているというのが文化の豊かさというものだと思うんですよ、俺は。庵野秀明もほぼ同じことを言ってたが…。
恐ろしいことにここまで約2000字も使って俺の思い出話と愚痴しか書いていないことに気付いたので映画の内容を語りますが、良かったのは上記したように映像の土台と言ってもいい画のコンセプトが実に児童文学の世界って感じでよかった。特に彩色と小物などの美術ですね。この辺は好きな人は完全に刺さるであろう。脇役イマジナリーたちのキャラクターもいい。派手さはないがかわいらしかったりヘンテコなデザインだったり、デザインがシンプル過ぎるのがやっつけのように思われそうな気もするがそれも子供の想像の産物という設定を考えればどんな子がこのイマジナリを想像(創造)したのだろうかという一歩進んだ楽しみ方もできる。そこら辺は割と懐が深くて子供が観たらかなりストレートに楽しめる映画だと思うんですよね。たまご侍と骸骨のイマジナリは超よかったな。原作は未読だがお話自体もストレートな子供向け作品としていい。原作では掘り下げて描写されてそうな悪役とそのイマジナリとの関係とかはもうちょい踏み込んで描写してほしかったなとは思うが、必要最低限のものはあっただろう。ほんと、概ねは特に文句のない映画なんですよ。
もちろん文句を書いていけと言われればここからプラス1000字くらい書けるとは思うが、思うが! そこは敢えて書かない! なぜなら最初に書いたように俺はこの映画に成功(主に興行的に)してほしいのでそこは書かないのだ! だからみんな観に行こう。『屋根裏のラジャー』いい映画ですよ!
まぁSNSで「ポスターが幸福の科学のアニメ映画みたい」っていうのを見て、確かに若干それっぽいな…と思って笑ってしまったりはしたが!
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