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生きる LIVINGのmaverickのレビュー・感想・評価

生きる LIVING(2022年製作の映画)
4.0
2022年のイギリス映画。1952年の黒澤明監督『生きる』のリメイク作品。小説『日の名残り』の原作者カズオ・イシグロが脚本を担当した。


舞台は同年代のイギリス。役所の市民課に勤める堅物の課長が余命半年を宣告され、自身の生き方を見つめ直すという内容。責任感も情熱もなく、ただ淡々と積まれた仕事を済ましてゆく職員たち。配属されてきたばかりの新人は情熱に溢れ、それがから回りしている。堅物の課長もかつては彼のように情熱に溢れていた時があった。だが今や家庭においても何の生き甲斐も見いだせないでいる。余命半年を宣告されて絶望に陥るも、果たして自分は残された時をどう過ごしたいのかと考える。「生きる」とは何なのか。観る人に問いかける話だ。

主演のビル・ナイは、本作で第95回アカデミー賞の主演男優賞にノミネート。いつもはファンキーな役柄の多い印象だが、本作で見せる静かな演技は素晴らしかった。堅物ではあるが、人柄は良く優しい老紳士。だが人生をどう楽しめば良いかを忘れてしまった悲しい男だ。バーで自身の故郷の歌を切々と歌い上げるシーンがとても好き。愛する息子には打ち明けられず、部下の若い女性職員に心を開く過程も共感出来た。街中でこれくらい年の離れた男女を見かけても、変な風に思っちゃいけないのかも?なんてね。

人生に楽しみを見い出すことはやはり必要。たとえプライベートが充実していても、仕事にやりがいや情熱を見い出せないとあんな人達になってしまうのかも。あと息子の嫁が一番嫌な印象だったな。彼女が良い人ならば、主人公が心を開くのは彼女なはず。でもほぼ他人の若い女性職員とこういう関係性になるっていうのも、それはそれで素敵な話だ。


オリジナル版は未見だが、設定やストーリーを知って黒澤版も観たくなった。日本の名作がリメイクされ、それが海外の数々の賞にノミネートすることは日本人として誇らしい。世を去っても、多くの人に影響を与え続ける。黒澤明はやはり偉大な映画人であった。
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