シャチ状球体

息子のまなざしのシャチ状球体のレビュー・感想・評価

息子のまなざし(2002年製作の映画)
4.6
常に画面の半分以上を登場人物が覆い尽くす息苦しいカメラワーク。特に印象的なのは、オリヴィエの退勤時に元妻が現れるシーン。オリヴィエが駐車場を出るために車をバックしていると、急にエンジンを切ってドアを開ける。カメラが右に寄っていき、そこで観客は初めて元妻がフランシスの正体を知るために押しかけてきたことが分かる。この映画はとにかく画面が窮屈なので、外の世界が全く見えない。カメラの外に何があって誰がいるのか。まるで親の後ろをついていく子どものように、オリヴィエだけが存在している狭い世界を見せられる。そして、その世界はフランシスが見ている世界と同じ程度の狭さなのである。

音楽は無く、職業訓練校で講師を務めるオリヴィエの日常と彼の過去に起因するトラウマ、そして訓練校の新入生・フランシスとの交流が淡々と描かれる。

『ロゼッタ』の監督だけあって、主人公の心情を全く説明しないのに役者の仕草や言動から内面が想像できる演技指導が秀逸。
本作もドラマティックな演出を極力排しており、ただ作業をしているだけのシーンも多い。その中でもフランシスとオリヴィエの世間話等で彼らの背景が自然に理解できるようになっていて、特に二人で食事をするシーンではオリヴィエが動揺したあと露骨にアップルパイをコーヒーに漬けまくって食べるようになるのも細かい心の動きが現れていて巧い。

罪は消えない。過去も消えない。だけど、薄れさせることはできる。
育った環境が違えば誰もが加害者になり得るし、同時に被害者にもなり得る。
関係が”近づく”に連れて親子のように見えてくるオリヴィエとフランシス。奇しくも二人は、望んでいた存在を見つけることができたのだった……。
シャチ状球体

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