ヨーク

PIGGY ピギーのヨークのレビュー・感想・評価

PIGGY ピギー(2022年製作の映画)
3.5
まぁ面白かったは面白かったんだけど、かなり思ってたのとは違ったなという『PIGGY』でした。いやほんと、悪くはなかった。全然悪くはなかったんだけど、こっちとしては安っぽい牛丼を食べようと思ってきたのに出てきたのはちょっとお上品な牛鍋御膳みたいなやつが出てきたっていうそういう感じの映画でしたね。どっちかというとむしろ牛丼よりも牛鍋御膳の方がいいじゃん、と思われるかもしれないし実際牛鍋御膳の方が手の込んだ仕事をしているというのはあるだろうが、こっちとしては雑に紅ショウガと七味をぶっかけてパパっと牛丼をかき込みたかったんだよなという、そういう気持ちもあるんですよ。
どういうことかというと本作のお話はかなり太った女の子(年齢は女子高生くらいか?)が周囲のリア充からはいじめられているところに連続殺人鬼が登場。なんと主人公の目の前でいじめっ子が拉致されてしまう。社会通念上は当然そのことを警察に通報して殺人鬼を追い詰めるべきなのだが、連れていかれたのは散々自分のことを豚だと言っていじめてきたクソ共である。さぁ、どうする? いじめられっ子の主人公、というものなんですよ。
面白そうなアイデアじゃないですか。んで予告編でも「殺すか、見殺しか」みたいなキャッチコピーがあって、あぁもう最初から助けるという選択肢は無いんだ、という感じになってんですよね。さらに言うと本作はエクストリーム配給の作品である。エクストリーム(旧TOCANA)が買ってくる映画なんだからブタ扱いされたいじめられっ子がノリノリで殺人鬼と一緒にいじめっ子をぶち殺していく映画だと思うじゃないですか。いや思うよ。エクストリームの映画をたくさん観てるようなポンコツ映画ファンならまず間違いなくそう思うよ。
でも最初に書いたように違ったんだな、これが。牛丼じゃなくて牛鍋御膳だったと書いたように、結構ちゃんとした映画だったんですよね。クソいじめっ子を拷問しながら「私にやらせたみたいにブヒブヒ鳴いてみな!」とかそういう感じの台詞が飛び交うような映画ではなかった。主人公の女の子、めっちゃいい子でいじめっ子が車で連れ去られるのを見送ってしまったことに死ぬほど良心の呵責を感じて苦しみます。でもそれと同時にあのクソ共が酷い目に遭うのは自業自得だと思ってしまうところもある。尺の大半は主人公がそのことで思い悩む描写が重ねられていくんですよね。ちゃんとした映画でしょ。
あと、本作は田舎町が舞台なんだけどその町の閉鎖性と、主人公家族が多分根っこに家族への愛はあるんだけどそれが全然伝わらずにコミュニケーション不全になってるということも結構丹念に描かれる。特に主人公家族の描写はガサツな田舎の親子関係という感じでとても良かったですね。アンタ(主人公)のためにやってんだよ! 分かるだろう! と言いながらそこに愛情はあるんだろうけど表面上は娘に当たり散らしてるだけみたいな典型的な言葉が足りない母親の描写とか生々しくて良かったなぁ。んで母親がそんな調子だから娘は委縮しちゃって普段いじめられてることも、殺人鬼が獲物を拉致した場面を目撃しちゃったことも言い出せなくてさらにドツボにハマっていくという感じですね。
ま、面白いんだけどね。そういうのも面白いんだけど、こっちはそういう面白さは期待してなかったからね。まぁちょっと拍子抜けでしたよね。シリアス路線なドラマだといってもそこまで名作かっていうと、まぁそこそこくらいですしね。もっとバカバカしくいじめっ子に復讐する話かと思ってたからというのを抜きにしても、そこそこくらいの映画ですよ。終盤は結構頑張ったゴア描写とかもあって、そうそうこういうの期待してたの、ってなったけどラスト5~6分くらいだし、主人公の内面描写を真面目に重ね続けたからカタルシスよりも痛々しさの方が勝っちゃうしでそこもスカッとする感じでは全くなかったからね。
まぁそういう感じなので、ちょっとどっちつかずな感じの映画だったなと思いましたね。数少ないエクストリーム配給っぽいポンコツさだなと思ったのはリア充男が着てるタンクトップの隙間からやたら乳首が見え隠れするところくらいだろうか。俺はエクストリーム配給の映画を何だと思っているんだ。
決して悪くはないし、むしろ真面目ないい映画だとは思うのでこれから観る人はエクストリーム配給作品だということを忘れて観ましょう。あ、あと主演のラウラ・ガランさんはマジ最高です。この人を観るだけでも十分価値がある映画だとは思いますね。
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