垂直落下式サミング

バーバリアンの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

バーバリアン(2022年製作の映画)
3.5
デトロイトを訪れた女性が宿泊先に行くと、ダブルブッキングで別の男がすでに滞在していた。行くあてもないため、見知らぬ人物と同伴での宿泊を決めるのだが…。とある民泊を利用した人間が、恐ろしい事態に巻き込まれていく姿を予測不可能な展開で描いたホラー。
前半後半で主人公が変わるのは、ヒッチコックの『サイコ』と同じ手管ですね。前半の被害者には大きな過失がない。ただ、仕方なく安宿に泊まってただけだもん。
後半にやって来る男のほうが同情の余地のない人物で、コイツは過去のセクハラについて訴えを起こされてショービズ界を追放されようとしている映画作家。ワインスタイン事件発覚後に、芋ずる的に告発されたアイツやコイツをモデルにしていると思われる。
でも、善人も悪人も、より純度の高い邪悪さの前には等しく無力。小さな家の地下室には、地上の淀みが煮詰まったような暗部が広がっている。
『イットフォローズ』に『ドント・ブリーズ』と立て続けにヒット作を生んでしまったことで、デトロイトはすっかり淀みの町という印象が定着してしまった。ミシガン州は、自動車アメリカ産業の中心地。マイケル・ムーア監督の生まれ育ったフリントも近くにある。
なにか不穏なことが起こると言えば、郊外のゴーストタウン。かつて栄華を誇った工業地帯の成れの果て。トヨタ様のお膝元で、その恩恵を受けながら暮らしてる僕にとっては、他人事じゃない気がするんだよなぁ。明日は我が身と経済的な不安も煽ってくるのが、デトロイト産ホラーの特徴。ロボコップでゲラゲラ笑ってる場合じゃなくなっちゃった…。
正義感の強い主人公ちゃん、やめとけ!やめとけ!とつい声を出したくなるドキドキする展開がとてもいい。あの地下室を出れば大丈夫なはず、えっアイツら夜中は外に出てくるの?どんな結末が待っているのか、いい意味で最後まで予想がつかない。
エンドロールの入りかたは、とても気持ちがよかった。同情の余地があるとかないとか知るか!これは殺しじゃない。駆除だ。世界にとって害のある生物は間髪いれずぶっ殺せ!