垂直落下式サミング

Pearl パールの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

Pearl パール(2022年製作の映画)
4.5
田舎箱入り娘の地雷感を、極端にカリカチュアした怪物が爆誕。
朝っぱらから、お母さんにお小言を言われる農家の娘。女の子は、この家庭環境を窮屈さを感じていそうな素振りをみせるれど、不服そうにしながらも動物の世話をするために家畜小屋へ行き、牛や豚にエサをやりながらそいつらの前で、「いつかスターになってみせるわ!」なんてこといいながら楽しそうにダンスを踊る。
あら素敵。きっと、ここからシンデレラストーリーがはじまるのかしら、もしくは夢と現実の解離に向き合っていくヒューマンドラマかもねと、物語に美しさを期待していたら、次の瞬間、わたしオンステージに途中から入場してきたガチョウが気に食わねえと、ピッチフォークで躊躇なく刺し殺して、沼地のワニに食わせる衝撃的な流れになる。なにこれ?
唐突なバイオレンスに面食らって、なんだ猟奇毒親バトルものなのかと思いきや、そこからさらに予測できない方向に進んでいくのがすごい。
母親が娘に接するときの厳格な態度は、毒親から子に向けられる歪んだ愛情のように写っていたけれど、娘の異常さが明るみに出るにつれて、これがこの娘と接するにあたって最善の態度であるから、ある種の猛獣調教のようだなぁと思ったり、そんで最後の最後に娘の脳内保管の都合のいい解釈で、真に「人の愛情のかたち」であるかのように昇華されて感情の捻れを肯定していくから、みたことのない不気味なものに触れているような感覚に陥る。
我が娘の異常性を誰よりも知っている母親は、必死にコイツを社会に出さないようにしていたんだな。それはやっぱり間違ってなくて、パールは地雷を踏まれると一般人の想像を越えてくる。かなりキショくて、とてもグロい。オーディションのところとか、共感性羞恥の暴力だと思う。
ラストの長セリフで、ミア・ゴスの真実と胸の内が一気に紐解かれる独白シーンが圧巻。パールは、生育環境がどうあれ、きっと似たような人生を歩んだし、家族との生活が破綻に向かうのも時間の問題だったと思う。ミア・ゴスは、このナチュラルボーン激ヤバネキを見事に演じきっていた。
そういや、前作のババアは自分で元ダンサーなのよとか言ってたけど、オーディションには受かってないのか。じゃあ、あの写真はなんやったんやろ?ハワードとのあいだに何があって、あんな両思いに愛しあうおしどり夫婦に至ったんだろうか?
観賞して数日経ったけれど、強ばった作り笑顔のラストシーンのその先を夢想して、描かれなかった半世紀にわたる夫婦生活のアレコレに想いを馳せている。ふとしたときに、彼らのことを考えてしまう。余韻ってやつが私生活の脳内に入り込んでくるほど、そんくらいパワーのある物語だ。人の心は、複雑怪奇なラビリンスですね。二人ならスペイン風邪も、世界恐慌も、第二次大戦のドイツ系移民迫害だって、乗り越えてゆけるのでしょう。死がふたりを別つまで。
前作『X エックス』の結末を知らずに先にこちらを観たからか、人物の評価を二転三転させていくサイコスリラーとして、抜群の面白さだった。