horahuki

夏バテ女のhorahukiのレビュー・感想・評価

夏バテ女(2022年製作の映画)
3.7
セミ人間のキモビジュアルが素晴らしい!半袖で短パンで虫取り網&カゴ持ったオッサンという通常形態の時点でヤバさは滲み出てるんだけど、酷暑の中ホットコーヒーを注文するあたりもポイント高い!そのオッサンに「やば!」的な反応した女子が卵植え付けられて大変なことになるよってお話。

私の好きなpsychoticwomenジャンル!しかもとある場所の開閉を境に90年代Jホラーの如くなルックに急激に変化するクライマックスがサイコーにテンション上がった!画面全体におちるコントラスト強めの陰影とボロッボロな和室と散らばる砂。そこに蔓が絡み出すことで生のウェット感を同居させ、「虫カゴ」の具現化としても象徴的空間に仕立て上げてたと思う!

カフェで働く主人公女子が職場でセミオッサンに遭遇して、そこからセミに過剰なほど嫌悪感を抱き始める。毎日のようにセミオッサンが店に現れるだけなのだけど、主人公はどんどん精神を病み、体内の至る所にセミの卵を植え付けられたと錯覚して全身を掻きむしり傷だらけになっていく…。ラジオで日射病って言ってる時点で現在ではないのだろうけれど、具体的な時代設定はなし。

本当にセミオッサンが卵を植え付けているのか、それとも主人公が狂ってるだけなのかはどうとも取れるようになっている。茹だるような暑さと睡眠すらも妨げるほどに鬱陶しいセミの鳴き声、そして睡眠薬のオーバードーズが重なった結果の着地点とした方がそのジャンル大好きなわたし的には好み。というより視線の相剋から互いの世界の相剋・支配権の争奪へと派生させることで意図的に規定ジャンルからの逸脱を目指していて、相反する主観的世界同士の交わりをその交わり自体の歪さをもってホラーへと昇華する試みのように感じた。

序盤からカット割りも音の使い方もなんかもう良くわかんなくて微妙感強かったのだけど、クライマックスはほんと良かった!天王寺動物園とか映っててそこもテンション上がった!😂


以下、ネタバレ妄想です。



セミオッサンとの遭遇前に主人公には赤いデキモノが顔に出来ており、強烈な白の光として直射日光から蛍光灯へと近似の意図が引き継がれた際にそれが見られる。次の場面ではもうなくなっていることを考えると、(夜の)蛍光灯ゆえの一時的な嫌悪感でしかなかったのだろうけれど、それ以前からやたらと顔を洗い水(アイスコーヒーも)を飲むシーンが挿入され、それらはvs夏の暑さの観点で統合されている。夏の暑さから解放される時間帯であるはずの夜のセミの声は、四六時中逃げられない息苦しさを与え、それ故にセミが泣き出し安息の夜まで犯されたことで防護壁が決壊し不調を訴え始めたのでしょう。家にいてもセミ、職場に行ってもセミ男と、嫌悪の対象から逃れられる場所もない。この辺り、憩いの場としての職場を意識させる演出が冒頭でなされ、オープンを外からのカメラで写すタイミングでその空気感を崩しており、その後にセミ男が侵入することも後押ししてる。安息の場を全て奪われ、暑さと音含めて全方位常に敵からの干渉・攻撃を受け続ける状況そのものが彼女にとってのレイプなんだろうなと思うし、その汚れの排出行為をある種の自己領域の回復として彼女の中で誤認しているように思う。

オッサンの方は恐らく冒頭でセミキッズに優しくしてた主人公を見てたんでしょうね。それでストーキングし始めてるような気がする。そしてあの場が「虫カゴ」であり、中盤くらいにある人肉餌のシーンと対照させるのであれば、セミ化しているオッサンは餌付けされる存在へと成り変わっているわけで、あの場に連れてきた誰かという超越的な存在が浮かび上がるしあの儀式的な相反の同化もそこ踏まえて好み。色々と妄想が捗る映画だなーって思った。『ハロウィン』的な性的欲求も汲み取れるような気もするし、双方ともにアンビバレントな思考だったのだとすれば、やっぱりその交わりもより病的で面白い気がする!
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