オレオレ

フルタイムのオレオレのレビュー・感想・評価

フルタイム(2021年製作の映画)
3.5
87分、ちょうどいい具合にテンションが続く。
私の好きなネトフリ仏ドラマ、「エージェント物語」で脱ぎっぷりが印象的だったノエミ役のロール・カラミーが主役、ここではコメディの才能を封じ込め、長距離通勤、公共交通機関ストライキ、転職面接が一気に折り重なった一週間を綱渡りするシンママのジュリーを演じている。

朝、暗いうちから起きだし、子供と自分の支度をした後は近所のおばさんに小学生の子供二人を頼み、駅まで全力ダッシュ、混んだ列車に延々揺られて通勤する先はパリ市内の四つ星ホテル。
メイド頭をやっているが、転職活動の一つがうまくいきそうで、面接まで漕ぎつけている。
仕事はテキパキやるが、いかんせん人手不足だし、部屋中にウンチをまき散らす客もいれば中間管理職としての仕事もやらなければならないうえ、とにかく時間に追われている。
電車に間に合うよう、次の客のチェックインに間に合うよう、子供のお迎えに間に合うよう、毎日、朝から晩まで時計とのにらめっこ。
しかも、元夫からの生活費支払いも遅れがちなため家計も火の車、さらには今週はフランスお得意の(?)ストで電車は動かない。

子供もいなければ自家用車通勤(しかも週に二日だけ)の私でさえこのイライラ感は分かるので、似た境遇の人はめちゃくちゃ頷くシチュエーションだと思う。
小さい子供を抱えた同僚を見てると、忙しい時期に限って子供は熱を出すし、車は壊れるし、仕事は立て込むし。
熱は出さなくてもやれ休校、やれ週末パーティの準備、やれ教材の準備やPTAなど、エンドレスで変化球がやってくる。
居残り保育料がかからないよう、かっさらうようにして託児所から子供を拾う生活の毎日、誰が揚げ物冷凍食品だけを夕飯として出すジュリーを責められようか…
しかし予定調和、ルーティンが何よりも好きな私には無理な生活だ・・・

途中、特急が通過するプラットフォームで飛び込むんじゃないかと思わせるくらい追い詰められるジュリーだが、かといって、もろ手を挙げて彼女を応援する気にもなれない。
なぜそこまでしてパリ市内の職にこだわるのか、がまず疑問。
地元か、車があるんだからせめて自家用車で通勤できる範囲で仕事を探せよ、って思う。
近所のおばさんの好意にも甘えすぎだし、同僚を自分の悪事に利用するのもいけ好かない。
ただ、そういう設定にしてあるからこそ、身近に感じられるのは確か。
転職先はまたパリ市内だが、せめてお給料があがり、よい託児所に子供を預けられるようになることを願うのみ・・・

しかし、フランスってあんなヒッチハイカー拾うんか!
アメリカでは大抵の州で違法のはず。まあ、違法云々のまえに怖すぎて乗れないけども。