垂直落下式サミング

必殺! THE HISSATSUの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

必殺! THE HISSATSU(1984年製作の映画)
3.5
必殺シリーズの劇場版。
時代劇における正義というものの定義は、国家権力側の人間が一般庶民に害を為す悪党を法によって定められた仁義のもとに大義名分を以て成敗するといった受け身な姿勢のものが多く、『水戸黄門』だとか『大岡越前』がその代表だ。正義をお上の裁きに委ね代行してもらうのが、日本活劇の王道フォーマットである。
一方で必殺シリーズのように、法で裁けない悪に対して庶民の代表が武力を行使する物語は実のところあまり受け入れられてこなかった。仕事人は江戸に住む職人や下級武士たちであるのが重要で、『座頭市』や『木枯らし紋次郎』のようなアウトローが活躍する物語とは少し違う。お上の作った規律が我々を守ってくれないのなら民間で正義を執行するぞ、という『怪傑ゾロ』のような西洋的自警団思想で組織された庶民の庶民による庶民のためのビジランテ集団なのだ。
時代劇映画が急速に衰退していくなかで、映画制作者たちはテレビドラマへと活動の場所を移していった。そのため70年代には現在も続編が製作させるテレビ時代劇の様々なヒットシリーズが誕生することとなる。視聴者にとっても制作者にとってもこの頃すでに時代劇のリアルが曖昧なものとなっていたからこそ、自由な発想のチャンバラ活劇がすんなりと受け入れられたのだろう。そのひとつがこの必殺シリーズである。
序盤から劇場版にふさわしい無情な展開で、六文銭と名乗る謎の暗殺者によって江戸の仕事人達が次々と殺されていく。というのも死角からの不意打ちや計画的な奇襲を得意とする仕事人は、謀が通じない組織化されたプロの戦闘集団に対してめっぽう弱いのだ。昔ながらの職人を脅かす合理主義集団という設定は、当時の世相を反映したストーリーだったのだろう。仲間が散々死にまくる仕事人チームだが、生き残った仕事人達が全滅を覚悟で六文銭に戦いを挑むシーンは熱く、ラストでついに主水の白刃が仇の喉元を捉える。闇に紛れてこその仕事人だ。
多くのゲストキャラが登場し、瓦職人の芦屋雁之助と研ナオコと夫婦仕事人がおいしい役回りを演じている。赤塚不二夫、たこ八郎…今はみられない往年のスター顔見世興業は、後年になればなるほど価値は増していくでしょう。中でも助っ人に参上する鎖筒使いの草野大悟の扱いが悪く、アンタ何しに来たの?って感じの退場の仕方には「あばよ!」と言いたくなる。