ヨーク

ミンナのウタのヨークのレビュー・感想・評価

ミンナのウタ(2023年製作の映画)
3.8
比較対象がアレなのでにわかには信じてはもらえないかもしれないが、清水崇の最近の作品としては村シリーズや島シリーズの一本目である『忌怪島』と比べたら頭一つ抜けて怖かったし面白かったですよ。いやまぁそいつらと比べられてもな…と思われるだろうし、実際俺も思ってしまうが! ホラー映画がちゃんと怖かったっていう! それだけでも俺はこの『ミンナのウタ』を褒めてあげたいと思いますね! なんだかカツカレーにちゃんととんかつが入ってるからOKみたいな低レベルなことを言っているような気はするが、今まではカツカレーだって言いながらコロッケじゃんこれ…って感じの映画でしたからね。いやコロッケカレーも美味いけどさぁ…。
お話はありきたりな心霊もので、俺は芸能人とか本当に疎いのでよく知らなかったんだけど、GENERATIONSという実在の歌とダンスの男性グループ(ジャニーズとかEXILEとかみたいな感じ)がレギュラーでやってるラジオ番組があって、その番組内で10年以上前からラジオ局の倉庫に眠っていたとあるリスナーから届けられたテープを紹介したところ心霊現象のようなものが起きはじめてメンバーの一人が失踪してしまう。数日後にライブを控えていたためにそのメンバーを捜索するために元刑事の探偵を雇って調査を始めるのだが…というお話ですね。
まぁお察しの通りにそのテープに吹き込まれていた歌というか断片的なメロディが呪いの力を持っていてどんどん怖いことが起きていくという展開になるのだが、その歌っていうモチーフが割とホラー演出にハマっていて良かったですね。まぁ正直そこは怖いというよりも不気味な感じという方が正しいかもしれないが、登場人物が机を指でトントン叩いたりするのがその呪いの歌のリズムになっていたりするのである。その辺はかなり分かりやすいけれどさり気なく環境音がその呪いの歌の裏拍みたいになっていたりと、怖いというほどではなくても気が付くとイヤ~な気分になる演出が随所に施されていて良かったですね。あとは他の人も感想でよく言っていると思うけどセルフオマージュ的に『呪怨』ぽさを意図的に前面に出して来ていて、絶対にロクでもないことが起こったであろう嫌な感じの家の雰囲気とかは往時の清水崇作品の雰囲気があってまとわりつくような嫌さがありましたね。
ただ、そういった作品全体の雰囲気はとてもいいんだけど、これはちょっとな~~と思ったのはGENERATIONSの出番がやたら多くて特に序盤から中盤のテンポはよくない。まぁグループ丸ごとが本人役で出てるなんてのは元からそれがありきな企画なのは明白なので大人の事情といえば大人の事情なのだろうが、もうちょっと人数を絞ってテンポよくお話を展開していってほしかったなというのはありますね。あとGENERATIONSつながりならこれも恐らく契約内容にあって仕方なかったのだろうが、彼らの楽曲が不自然に流れるシーンがいくつかあってそれも単純に興醒めであった。もちろんGENERATIONSのファンならそれも楽しいだろうし、ファンでない俺でも唐突にカラオケ風映像になるところは笑ってしまったが。そしてそのGENERATIONSの描写に尺が割かれるために他の登場人物の描写が全然足りないという問題もあった。探偵のおっさんはまぁ舞台装置みたいなもんだからいいとして、後半重要な役割を担うマネージャーのリンちゃんはもっと描いておくべきだっただろう。リンちゃん何でいきなりそんな大胆な行動取ってんだよ、といささか、いやかなり強引な展開になってしまっていたので。
と、ここまで書いてあんまり具体的に怖かったシーンを書いていないっことに思い至ったが、正直冷静に思い返すとガチで怖かったシーンは一か所だけであった。ホラー映画の怖いシーンを文章で説明するのも無粋だと思うので詳しくは書かないが、観た人なら分かると思うけどエンドレスおばさんのシーンですね。あのシーンは正直言うとこういう風に怖がらせに来るだろうなとは分かっていたんだけど、いや負け惜しみじゃなくて本当に思った通りの演出だったんだけど、それが関西弁だったということでネイティブ関西人の俺は飛び上がってしまうほど怖かったんですよね。これはあの役者さんの演技プランだったのか監督の演技指導だったのかは分からないけど、関西人になら分かる細やかなイントネーションとして関西から関東に来た人の喋り方をしているところで急に豹変して素の関西弁に戻るっていうのがめちゃくちゃ怖かったんですよ。そこのところはきっと関西弁話者にしか分からないところだとは思うが、友達とか恋人とか家族とかの親しい人がよそ行きの喋り方をしていると思ったら急に素に戻って悪態をつくみたいな感じがあってそれが方言として完璧に表現されていたのが素晴らしく怖かったですね。うん、あのシーンはガチで怖かったよ。まぁでも思い返そうとしても怖かったのはそこくらいかもしれないが…。
他はまぁ大体よくある感じの恐怖描写でそこまでではなかったかな。あ、でも後半、問題の一軒家に行ったときに建物内を探検したりはせずにずっと玄関に突っ立ってたのも普通なら(いや家の中探検しろや…手抜きかよ…)と思うんだけど上記した激コワシーンがその玄関だったもんだから逆にその玄関にずっといるというのが怖くて、早くそこから移動しろよ…! と違う意味で思ってしまったというのはあるな。
オチとかは特筆するもんでもないし、GENERATIONS出すぎ問題にまつわる様々なダメ出し部分もあるのだが、ガッツリ怖いシーンもあったのでまぁいいかなという感じでしたな。間違いなく最近の清水崇作品の中では上澄みではあろう。なので中々面白かったですよ。まぁ多分、次はまた島シリーズの展開になるんだろうけど…。
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