ヨーク

映画プリキュアオールスターズFのヨークのレビュー・感想・評価

3.6
面白いか面白くないかで言えば”楽しかった”と、ちょっとそんなずるい答え方をしてしまう映画でしたね『映画プリキュアオールスターズF』は。去年の『デリシャスパーティー・プリキュア』の映画は見逃したので『トロピカル~ジュ!』以来2年ぶりの劇場版プリキュアだったのでちびっ子たちの反応も含めて楽しかったのは楽しかったのだが、そういう奥歯に物が挟まるような言い方をしているときは大抵、同時に苦言の一つや二つもあるときなのであった。
いや、あんまプリキュアの映画で真面目にダメ出しとかしたくないんだけどね。別にガキ向けのアニメ映画だから下に見ているとかそういうわけではなくて、俺自身プリキュアが好きなのはいわゆるニチアサ枠の中でも一番対象年齢が低いゆえにもっとも単純な作りになっている映像作品である、ということが理由だからお話が幼稚だったりするのは別に全然いいし、むしろそういう幼児向けなやつウェルカムっていうところはあるんですよ。でも本作はちょっとそういうのじゃなかったな。じゃあ大人向けの凝った話なのかといえばそういうわけでもない。
ストーリーは、びっくりするくらいシンプルで、本作がプリキュアシリーズのオールスターもの(各作品から数人のキャラクターが選抜されて共演するという形)なのを踏まえている必要だけはあるものの、そこさえ分かってれば、目が覚めたら見知らぬ異世界にいたプリキュアたちが他作品のキャラクターと合流しながら遠目に見えてとりあえず目立っているお城に行く、というそれだけのお話である。まぁその途中で怪物に襲われて戦ったり、普段は絡みのない他作品のキャラクターとはじめましてしてぎこちない(初見で打ち解けている奴らもいるが…)感じでやり取りしながらもどんどん打ち解けていく、みたいな部分はある。
だけど正直物語と言えるほどのドラマは展開しない。ゲストキャラクターであるキュアシュプリームやプーカは一応物語の中心にいるキャラではあるのだが、彼らがその物語を展開するのかといえばそうでもなくてそこで語られるのは彼らの物語ではなくて単なる設定に過ぎないのである。単なる舞台装置でしかなくて、人間(ではないかもしれないが)としての彼らの苦悩や喜びが描かれているとは俺には見えなかった。似たような立ち位置のゲストキャラクターなら劇場版『ハートキャッチプリキュア』のサラマンダーとオリヴィエは単なる設定としてそこにいるだけの記号的なキャラクターではなくてパーソナリティのある個人として、あろうことかプリキュアで『砂の器』を引用しながら丁寧に描かれていたのに、本作ではそれほどのキャラクター造形は観られなかった。そこは素直に残念である。
じゃあ代わりに本作には何があったのかというと、感想文の最初に書いたように楽しいものがあったのである。それが何かというとお祭り的な楽しさですね。とっくに該当のシーンはテレビCMとかで流れてるからネタバレではないとして書きますが、本作では全プリキュアが画面に出てきます。もちろん、声はごく一部だし大半は画面のどこかに映っているという程度だが、何だかんだで全員出てくる。ちなみに2023年現在でプリキュアの総数は77人らしい。一般的な一個小隊よりもやや上くらいの人数か。全員揃ってその御姿が一つのフレーム内に収まったシーンは正にプリキュアの壁という感じでその威容にちょっと笑ってしまった。しかしまぁ、全員にセリフがあるわけではないとはいってもそれだけの人数を画面の中に出すとなったらそれはもうストーリーを語る映像作品というよりもPVとかMVとかそういうのに近いものになっちゃうと思うんですよ。
俺が本作を観ながら思い出したのも正にそれで、数年前に松本理恵(劇場版『ハートキャッチプリキュア』の監督)が作ったポケモンのMVがこんな感じだったな、ということだった。歴代ファンの歴代ファンによる歴代ファンのための映画、という感じ。ちなみに本作の監督はプリキュアオタクを公言している田中裕太である。そこはさすが田中裕太で序盤はキャラクターの個性が細かい動きの芝居にも反映していて素晴らしかった。たとえばちょっと空手の型っぽく腰をどっしりと落として構えるキュアフィナーレとか。
そういう描写満載だからそりゃまぁファンは楽しいんだよ。田中裕太っていや俺がさっさと東映から離れてオリジナルの映画撮れよと思ってしまう人なので、そんな才能爆発してる人間が大好きなプリキュアをこれでもかという感じで撮ればファンにはたまらない作品になるに決まってる。でもそれがあくまでファン向けなんだよな。上で俺がプリキュアを好きなのは幼児向けの真っ直ぐさがあるからだと書いたが、ちびっ子は今まで各作品の名場面とかを知ってなきゃ楽しめないようなセリフ回しとか演出とか楽しいと思うんだろうか。まぁ単純にプリキュアがいっぱい出てきて楽しいということはあるかもしれないが、きっと本作は歴代作品を全てとは言わなくても数多く見ているオタク層の方が楽しめたに違いない。それ言い出すとオールスターものそのものの否定にもなるじゃんと言われそうだが、実際対象年齢のちびっ子がオールスターものとして楽しめるのは片手で数えることができるくらいの作品数が限界なのではないだろうか。それより先はもう大きなお友達が満足するだけの世界なんじゃないかなって思いますよ。
そのせいでストーリーもほとんどあってないようなものになってるし、正直一本の映画としての満足度はそんなに高くはなかったな。田中裕太作品なら『スター☆トゥインクルプリキュア 星のうたに想いをこめて』なんかは非オールスター作品としてストーリーの出来も非常に良かったから、やっぱオールスターものにする弊害というのはバカにならないくらい大きいんじゃないかなと思いますね。それはそれとして往年のファンとしてはお祭り的な楽しさがあったのも事実なのだが…。
まぁそこはどうしても両立は無理だから難しいですね。完全に割り切ってプリキュアのフェスとして臨めば楽しいものだとは思いますよ。俺は楽しかったよ。
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