垂直落下式サミング

SISU/シス 不死身の男の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

SISU/シス 不死身の男(2022年製作の映画)
3.5
第二次世界大戦末期に、金塊掘りの老兵がナチスに遭遇し、金塊と命を狙われることになるのだが、実は老人は特殊部隊出身の伝説の最強兵士だった。ナチス達の追撃を避けながら、ついには攻守が逆転し追い詰めていく。フィンランド製作の作品。
主人公がバカみたいに強いせいで、逆に萎える系。相手の死は軽いのに、こちらは生に愛され過ぎてる。台詞が少なく生真面目なテンションだから、余計に盛り上がりにくい。
でも、マジで強い。地雷は、軽くぶん投げれば平気デース!機銃の一斉掃射は、金タライで防げマース!首吊りされても、金属の出っ張ってるところに身体を刺して固定すれば首絞まりまセーン!飛行機が墜落しても、沼地だから無傷デース!
最強無敵の男が、ナチスを相手取りつるはし一本で立ち向かうと言いつつ、んなわけあるかのオンパレードで、ちょっと辛い。いちばんヤバかったのは、水のなかで相手を殺して死体の肺のなかの空気を吸えば息継ぎしなくてオッケーみたいな理論。これホントですか?
ケレンを出そうとして、失敗しているわけではないけれど、あんまりうまく行ってもいないような微妙な出来映え。
特に、トラックの荷台に乗せられた若い女たちのことは、もう少し語られるべきだったと思う。彼女らが、戦場でどのような仕打ちを受けたのかは想像に難くないが、全員の顔もわかんない状態で急に横並びになられてもなあ…。
いちばんいいシーンは、ドイツ軍のなかでも若めのほうの戦車の運転手が、首吊りされた主人公に、敵ながら天晴れと脱帽して敬意を示すところ。トレンチコートの下は薄着でセクシーな隊長や、毛深いひげ面の狙撃手の人も、彼に感化されて表面上は一瞬だけ気骨ある軍人に戻って自分も帽子を脱ぐ。ここは、とてもいいシーンだった。
そんな甘ちゃんだから…っていう若い軍人の結末にも納得感があって、同時に隊長の卑近さと邪悪さを際立たせており、メインの奴らのキャラクターとその末路は気に入っている。
惜しむらくは、このズル賢さを主人公との戦いのなかでも、もっと発揮してくれたらよかったのになあと。バカみたいに強い伝説の特殊部隊に対して、ナチス側が釣り合っておらず、敵役に力不足感は否めない。