ヨーク

北極百貨店のコンシェルジュさんのヨークのレビュー・感想・評価

3.7
予告編で何となく画の雰囲気が良かったので観てみたけど面白かったです。ちなみに原作は未読。未読どころかタイトルも原作者の名前も知らないというアンテナの低さっぷりだった。確かビッグコミック刊とか字幕に出ていたので多分漫画なのだろう。まぁでも原作は知らなくてもそれなりには楽しめましたね。
お話自体は非常にシンプルで『北極百貨店のコンシェルジュさん』というタイトルにあるように主人公は百貨店の新人コンシェルジュである。要はお仕事モノのお話なのだが主人公はドジっ子だが頑張り屋という設定でいくつもの失敗をしながら一回り成長していく、という感じのお話だ。もうそのまんま『おたんこナース』の百貨店版だと思えばほぼ間違いはないだろう。正直大枠のストーリーと言えるようなストーリーはそれだけである。
多分原作が1話かもしくは2~3話で一つのエピソードになるくらいの読み切り形式で百貨店を訪れる個性豊かな客とそのお悩み解決のお話を積み重ねていきながら主人公の成長を描くというタイプの、独立性の高いエピソードごとに区切られてるタイプの作品なのだろうと思う。んで本作は映画版として原作のエピソードの順番を入れ替えたり合成したりしながらなるべくシームレスに続くように再構成したという感じであろう。さらに言えば本作は多分原作の序盤、単行本でいえばせいぜい2巻くらいまでのエピソードを映画っぽく再構築したのではないかなと思う。ま、原作を知らないので想像でしかないのだがそういう感じは受けましたね。だからストーリーとしては主人公がコンシェルジュとしての第一歩を踏み出した辺りまでしか進行しないので特にどうということもないお話ではあった。
ただ本作はストーリーよりも設定が面白いお話で、主人公が勤める百貨店の店員は全員人間なんだけどお客さんは動物なんですよ。びっくりですね。アニマル御用達の百貨店なのです。まぁ二本足で歩いたり言葉をしゃべったり擬人化はされているが実在の動物がお客さんとしてやってくる。しかも女優をやってるミンクとか芸術家のマンモスとかがいて、いわゆる獣人的な存在が普通にいる世界なのか? と思ってしまうがその辺は実はよく分からない。ただ、これは予告編でも触れられているのでネタバレではないとして書くが、百貨店を訪れるアニマルお客さんの中でも絶滅した動物(例えばニホンオオカミとか)は“V.I.A”(ベリー・インポータント・アニマル)として丁重に扱われるのである。
ちなみになぜ動物が擬人化しているのかやその中でも絶滅種がなぜ生きていて百貨店に来店しているのかは分からない。そもそも舞台は地球なのか架空のファンタジー世界なのかもよく分からない。実際に絶滅した動物が出てくるのだから地球ではあるのだろうが、現実の世界なのかどうかは最後まで分からないのである。人間の手によって絶滅した動物を人間が客としてもてなすというのは掘り下げれば色々と面白いものが出てきそうだし含蓄のあるようなテーマに辿り着きそうなのだが、少なくとも分かりやすい形でその部分は描かれていなかったですね。そこは残念。せっかく面白そうな設定なのに。まぁ原作がまだ途中で本作がウケれば完結編的な感じで二作目を狙ってるというような事情があるのかもしれないが。
なので70分という短尺なのもあってお話もイマイチ締まりが悪いというか食い足りないというかこじんまりとした感じのまま終わってしまった感があるのだが、でもしかし本作は作画がぶち抜けていいアニメ映画であったのである。最初に画の雰囲気が気に入ったから観たと書いたが、いやぁやっぱ俺見る目あったわと思ったもん。全体的に画が動くというアニメーション最大の気持ちよさに満ち満ちていたのだが、主人公の女の子の動作の一つ一つの緩急が激しくてその嘘っぽい動きが小気味いいんですよ。そこは非常に面白かったですね。如何にもアニメ的なオーバーな動きが連続するのだが画のタイミングがよくて嫌味さはない。単純にアニメーションとしての画の上手さが半端じゃないのだと思う。
なのでそこだけを目当てに観ても余裕で元は取れる作品だったと思いますよ。終始(良い作画だなー)と思いながら観ていたけどエンドロールの作画陣の名前がビッグネームばかりでちょっと笑ってしまったよ。パッと目に入ったのだけで松本憲生に本田雄に橋本晋治だったからね。そういや監督の板津匡覧も名アニメーターだ。なのでまぁ作画の眼福という点では素晴らしかったですね。バトルとかがない作品であるのも功を奏してか、撮影やエフェクトでそれっぽく見せるのではなくてちゃんと上手い作画というのを堪能できた。そこが本作では一番良かったです。
まぁ設定に比してのストーリーの踏み込み度合いとかそれっぽく提示されておいて結局何もなかった要素とか文句もそれなりにはあるのだが、その辺はまぁある種の寓話ということで不問してもいいかと思えるくらいのビジュアルの良さではあったので、それだけで俺的にはOKです。
ただまぁこれなら映画よりもテレビアニメ、もしくは配信で1クール以下くらいの話数でやった方が構成はよくなったかなぁとは思いますが…。でもテレビシリーズであの作画は維持できないだろうな。なので気になる人、特に動物好きと作画オタクは今のうちに劇場で観ることをおすすめします。
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