垂直落下式サミング

駒田蒸留所へようこその垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

駒田蒸留所へようこそ(2023年製作の映画)
3.8
お前も、入社して半年経ったのか。もう一人前のもの書きだな。そんじゃあ、いっちょうウィスキー酒造の取材に、いってらっしゃい!
ノンストレスなお仕事系。主人公の新人ウェブニュース記者くんは、今日もどっかで文句たれてそうなダメなやつで、ちょっと前の映画だったら、超やばいミスをやらかして、会社の直属の上司か取材に行った駒田蒸留所のこわい職人に怒鳴りちらされそうなところを、あくまでライトな扱いを受けている。
上からも横からも斜めからも、ちょっとしたお小言くらいで済んで、そこで社会人(プロ)としての矜持とモチベーションを獲得していくのだけど、まあまあ、なんと言いますか、羨ましいゆるふわな職場ですこと。
ニンゲン負荷をかけすぎなくても、ちゃんと人成れるんですよって、本人の本気を待ちなさいと、熱血ど根性ワーキングからの脱却ってこと?これがゼット世代仕様ってことなのかしら。
若社長たちが甘いのは、そりゃあ宣伝してくれる他社様の人だからなんだろうけど、現場体験となるとそうはいかない。
…と思いきや、そこでも甘々。この人あとでゼッタイ怒りそうって感じをプンプンかもしてる無口職人が、ぜんぜん怒んない。これもコンプラ時代を象徴してるなあと。
自分は、団塊世代の頑固一徹職人たちに怒鳴られぶん殴られて仕事してきたであろう古株なのに、とてもやさしい。駒田の社風もあるのかも。
跡取りとして会社を継いだはいいけど、右も左もわかんなくて毎日泣きながら仕事してた若社長をみてるから、若い子への接し方のモードを、教育じゃなくて導きに切り替えたんだと思う。僕も数十年後に、こうありたい。
今、現場仕事してると実感するけど、怒鳴りオヤジほんとに減った。僕が社会人はじめたてのころって、質問したら胸ぐら掴まれて叱責を受けたり、ちょっとしたことで鼻先一ミリの距離でガン飛ばされたりしてたんだけど、そういう人たちがここ数年で軒並み丸くなって、そのあとに控えてる働き盛りは就職氷河期も落ち着いたはざまからホンワカゆとり世代が中心だからか、頑固一徹はサラリーマンの世界から絶滅しつつあるのを感じてる。少なくとも、うちの職場はそう。
時代が旧世代の価値観を持った人を生きづらくしてるってよりも、古い考えだった人たちが自らの選択で、頑張って無理するのをやめていったような気がする。やっぱ前が異常だったんだよ。
いちばん好きだったのは、琉生のオタク好きする実家喪女っぷり。琉生と高橋がちょっと言い合いになって険悪になったあとで、美大生時代にデッサンの授業で後ろのほうから男の子の横顔をみている意味深な記憶がフラッシュバックする。この子もこの子で何かを諦めたんだなって、数秒でわからせる生理的な演出。
歳の近い舐めたヤツって久し振りに会うタイプの人間だから、押し殺してる自分が出ちゃったんだろうな。若くして経営の厳しい家業を継いだから、ろくに異性経験ないままオトナになっちゃったんだろうな。ここだけで色々勘ぐれる。さすがDMM.com製作。早見沙織の萌えオタに媚びつつも、絶妙なリアリティラインを引いた生々しさの出しかたがうまい!