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瞳をとじてのDのレビュー・感想・評価

瞳をとじて(2023年製作の映画)
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神がかった映画のパワーをみせつけられ圧倒され、早くも今年ベストを確信してしまった。

そびえ立つ31年振りの新作長編映画はあまりにも巨大、偉大にして濃厚であり、完璧な映画だ。

⚠️以下やや内容に触れているため注意⚠️









まず驚いたのは、詩的で説明が少なく内省的にして静寂な作品が多いエリセにしては、情報量が多くて外向的かなり饒舌でありみやすいということ。

次に、エリセの「ミツバチのささやき」、「エル・スール」に次ぐ3部作として、仕上がっている。

「ミツバチ〜」で用いられた精霊に関する更なる進化論を唱えた記憶を辿るエリセのメタ視点を織り交ぜた集大成。

そして、「エル・スール」の続編でもあるような、パラレルワールド的に時系列を超えた地続きのライン。

満を持して、アナ・トレントが出てくると、いよいよもってその想いが高まってくる。

さらに、「マルメロの陽光」すらも取り込んでしまった構造を持つ、映画内映画、映画についての映画。

さまざまなものが幾重にもレイヤーが被せられ、まさにエリセの人生そのもの如く重厚さを持っていて、もちろん他の映画からの引用・影響も垣間みられ、それらを丁寧に積み重ねたピースが映画の奇跡を生む。

映画のタイトルの意味をも噛み締め、こちらも静かに瞳をとじて、鑑賞後の余韻が持つ芳醇さか味わいは、滅多にお目にかかれない類のもの。

エリセの描きたかった到達点は、永遠に忘れることのできない魔法をみさせてもらった、そんな極上の体験。

感謝しかないが、ちょっとした畏怖の念すら感じる、人生を賭けて拘りまくり、格の違いをみせつけられ、執念じみた凄まじい大傑作。

エリセの作品はどれもが傑作のみ(甲乙すらつけ難い)といった、フィルモグラフィーで成り立っている、神格化された映画作家だ。

尚、本作では何度かはさみ込まれる、庭の石像が指し示す表現については、考察のし甲斐があり、作り込まれたディティールを味わい尽くしたくなる。
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