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Bi Gan | A SHORT STORY/ビー・ガン | ショートストーリー/壊れた太陽の心のKKMXのレビュー・感想・評価

4.5
 仕事終わりに天才をキメてきましたよッッ!15分500円の極上夢体験、最高ッッ!

 やはり天才の夢は、短くても深いところに刺さりました。単に美しい夢という感じではなく、深い記憶にアプローチされるような、とんでもなくノスタルジックでセンチメンタルな気持ちになります。
 天才の描く夢は、かつて大切だった人との別れの記憶を、現在の視点から振り返り、実は過ぎ去ったものではない、しかし哀切な別れの痛みは記憶となり、代わりに胸が締め付けられる郷愁が残って、我々個々人の記憶を揺さぶり、しかしそれがとても大切なものであることを、我々は実感していく……そんな体験なんですよ、天才の夢って。作品じゃなくて体験なのではないか……そんな錯覚を感じました。それを日本語だと、『切ない』の一言で表現できてしまうので、日本語というものは繊細さを表すには最適な言語であります。ジャパニーズ・センシティビリティ。

 案山子の炎にタルコフスキーのサクリファイスを連想し、その余韻でひとり目のロボットの話はうる覚えとなりましたが、忘却の麺を食べ続ける女性はすでにその存在だけで切ない。記憶を忘れようとしているわけですから。そして瞳をプレゼントし灯りを照らす黒猫の優しさにひと泣き。電車の扉が開くシーンは深く刻まれました。
 3人目の悪魔も、魔法を使えるようになっても不幸なのはめちゃくちゃリアル。この世に蔓延る魔法の使える悪魔は、実は不幸なのだと納得。欲しいものを求めて無限に得ても満たされないんですよね。悪魔のブルースです。
 少女と猫の邂逅は、なんとも胸に迫ります。むしろ、再会までの物語の切なさですね。愛していたのに離れてしまった。天才の夢にはこのテーマが繰り返されます。そして、我々は愛するものとの別離を繰り返し、痛みと悲しみと郷愁を胸に秘めて、一見忘れたように、しかし決して忘れずに生きていくのです。

 なので、天才の夢は真実であり、その切なさは我々の胸を射抜くのであります。
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