ヨーク

ザ・クリエイター/創造者のヨークのレビュー・感想・評価

ザ・クリエイター/創造者(2023年製作の映画)
3.8
特に文句のないおもしろSFだったのでぶっちゃけそんなに言うこともなく、あーおもしろかったー、だけで終わってもいい感じではあるのだが、まぁちょっとだけ感想文を書いてみようか。
本作はあのハリウッド版『ゴジラ』のギャレス・エドワーズが監督と脚本の両方を務めている作品なのだが、端的に言うともうオタク丸出しの映画でしたね。名作SFはもちろんのこと、日本のアニメや漫画からの引用も多々ありそうな感じでそういった過去作品の二次創作というかファン丸出しの同人誌的な感じが全編から溢れていて、そこが実にダメだなーコイツ、と思いながらも、楽しそうでいいなー、と微笑ましくも思ってしまうような映画なのでした。俺は自分自身をオタクだとはこれっぽっちも思っていないが、世間一般でオタク的とされるものは大体好きなので本作も何だかんだで面白かったですよ。
お話も実によくあるような感じで、AIが今以上に発達した世界で人々はそれを便利に使っていたのだがある日AIが暴走してロサンゼルスに核攻撃をしてしまう。それをきっかけに欧米諸国は反AIに鞍替え。そして親AIを貫くニューアジアに誕生したという人類を滅ぼすと言われるAIを抹殺すべく主人公が送り込まれる…というものです。
うわー! よくある感じ! だけどまぁそれはいいよ。そこはいい。ちなみに映画の冒頭は主人公の潜入任務のシーンでニューアジアの親AI組織の構成員としてある女性と恋人関係になっているところから始まる。そしてそこへ唐突にアメリカの軍隊が侵攻、何やかんやあって恋人の女性は死んでしまって主人公は傷心のまま帰国、そしてその数年後だかに改めて人類殲滅AIを倒すべくニューアジアに赴くんですね。確か恋人の女性が生きてるかもみたいな希望もあったんだったかな。うわー! よくある感じ! である。ちなみにその人類殲滅AIというのは少女の姿をしたAIロボで死んだと思われる恋人とも因縁があり主人公と同行することになる。うわー! よくある…もういいか…。
ま、そういう感じの映画なんで細かく解説したり感想を深く絞り出さなくても大体分かるだろ、って感じの映画ですよ。大体みなさんが考えてるような映画でしたよ。様々な過去作の断片を感じるようなオタク丸出しなおもしろSFアクション映画です。ただ俺としては既視感がバリバリにありながらもちゃんとSFとしても面白い作品だったんですよね。何を持って素晴らしいSFとするかは人によって色々あって軽々しく口にすると戦争が始まりそうなのでそこは敢えて深堀りはしませんが、俺的には我々が今現在生きているこの世界の延長線上でありながらその世界を別角度から表したもの、という物差しがある。
それでいくと本作はかなりベタな近未来SF世界の描写ではあるものの細かいデザインとか、そういうデザインの建物や小物が生活の中に溶け込んでいるという感じがすごくあってそこが非常に良かったんですよね。一言でいえば世界観の作り込みがすごい、ということだろうか。ただ、そこは主にビジュアル面に関してのみであの世界の統治機構がどうなってるかとかどのような経済圏が築かれているのかとかはいまいちピンとこないのだが、少なくとも東南アジアが舞台となる街並みとそこでの生活感は素晴らしかった。特にジャングルの中にあるサイバーパンク感のある建物と宗教的な装飾のマッチングとかがよかったですね。
宗教的といえば本作はかなりモロに仏教、それも恐らくチベット仏教的なモチーフもたくさんあってニューアジアのAIたちは神を奉じているという設定なんですよ。なのでよく見るようなオレンジ色の僧衣をまとったロボとかもたくさん出てくる。あのデザインも良かったな。ただその設定が結構重要なものとしてあるのなら、個人的には本作のメインであるところのドンパチアクションはもうちょっとカットしてAIが神を信仰するようになった過程を描いてほしかった。『火の鳥』のロビタを例に挙げるまでもなくAIもしくはロボットという存在が人間性を得るというのは古今東西のSFで定番じゃないですか。俺としてはこの映画の世界でAIが神を発見したその瞬間というのを観たかったので、そこが無かったのは残念でしたね。そこがあればあのただでもすごいインパクトの自爆ロボのシーンがもっと味わい深いものになったのになぁ、という気もする。まぁそこに尺を割いてしまうとかなり別ジャンルになってしまうので仕方ないかとも思うが…。
トータルとしてはそこまで突出した何かがあるSFというわけでもないが、しかし全体的に抑えるべきところは抑えて一本の娯楽映画としての完成度も高いので面白い映画でしたよ。SF好きなオタク友達と一緒に観に行って、観劇後に「あのシーンの元ネタは○○だよな!」とか言いながら飲むのが一番正しい楽しみ方なのではないでしょうか。衛星軌道上の空中要塞とか馬鹿デカ戦車とかいっぱい出てくるんで最後まで飽きないですよ。そういう映画なのでやはりこの一言に尽きるだろう。
あーおもしろかったー。
ヨーク

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