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ダンサー イン Parisのヨークのレビュー・感想・評価

ダンサー イン Paris(2022年製作の映画)
4.0
タイトルが『ダンサー イン Paris』とあるようにパリに住んでいるダンサーのお話です。分かりやすい。タイトルに偽りなし。まぁ、尺の3分の1くらいはパリから離れた田舎に行くけどそれくらいはいいだろう。基本はパリで生きているダンサーのお話です。そしてダンサーと一口に言っても世の中には色々なダンスがあって、歌舞伎とか能もダンスと言えばダンスなわけだが、本作で主に取り上げられるのはバレエとコンテンポラリー・ダンス、あとちょっとだけストリート系のダンスも出てきたかなという感じ。俺はダンス自体が好きだし、その中でもバレエは好きなんでかなり楽しめた一本でしたね。
そして本作を紹介するうえで絶対に外せない売りはそのダンス部分と重なるものなんだが、主演はマリオン・バルボーという女性であるということだろう。とか言いながら俺は本作がきっかけで初めて彼女の名を知ったのだが…、まぁそれはいいとしてどんな人なのかというと本業ダンサーの人です。それもパリのオペラ座でプルミエール・ダンスーズにまで上り詰めた人らしい。そりゃすごい。ちなみにプルミエール・ダンスーズとはバレエダンサーにおける階級の最高位で群舞から抜け出して主役、もしくは主役級の役割を演じる者たちの総称である。国や劇団によってそこら辺の定義は曖昧なところはあるのだが、確かパリ・オペラ座に於いてはいわゆる「バレリーナ」と呼ばれるのはこのプルミエール・ダンスーズ以上の者である。バレエに馴染みのない人に分かりやすく言えば『幽遊白書』で言うところのS級妖怪のランクに位置するダンサーと言えばいいだろうか。ちなみに『幽遊白書』でのS級妖怪というのは霊界の手に負えない存在を全てS級と一括りにしているだけでS級の中でもピンからキリまであるということが語られる。そして現実のバレエでもプルミエール・ダンスーズが最高位としながらもその中でもさらに次元の違う天才の中の天才としか言いようのない者にはエトワールという称号が与えられることになっている。雷禅の旧友たちがこの…いやもう漫画で例えるのはいいか…。ちなみに俺が今まで生で見たダンサーの中でもっともぶっちぎりに凄かったシルヴィ・ギエムは19歳にしてエトワールの称号を得ているのでちょっと人類とは別枠にしたいほどの存在ですね。そういう人外のバケモノはひとまず横に置いとけばプルミエール・ダンスーズまで上り詰めた人は世界最高峰のダンサーといえよう。
というわけで本作主演のマリオン・バルボーという女性はバレエ界の中でもトップ集団に位置するダンサーだということです。そういう人がダンスが主要テーマな映画で主演を務めて、当然作中でもダンスシーンを披露するのだからこの『ダンサー イン Paris』はそりゃ面白い映画ですよ。何ならダンスシーンなんかなくても彼女の肉体を眺めているだけでも眼福である。いや、別にエロい意味ではなくてダンサー役だから練習着なんかは身体のラインがピッチリと浮き出るものになっているし、作中でも練習の合間に専属の人にストレッチを受けたりするんだがそのときに映される肉体の美しさが凄いんですよ。ありきたりな例えだがギリシャ彫刻かよって思うような美しい身体が全編にわたって堪能できるのでそれだけでも本作を観る価値はあると思う。
ここまで書いて映画の内容にはほとんど触れていなかったが、お話は別に大したものではなくて再出発モノ(そんなジャンルあるんだろうか…)という感じなんだが、マリオン・バルボー演じるオペラ座のダンサーは将来も嘱望されているのだがある日舞台でジャンプを失敗し負傷してしまう。怪我自体は捻挫なのだが以前から捻挫癖があったこともあり経過が悪ければ手術も必要かもしれないし最悪の場合はダンサーとして再起不能かもしれないという診断を受ける。それで意図せぬ休暇が生まれた彼女は友人の仕事を手伝って田舎の貸しスタジオで料理の仕出しをするバイトを始め、そこで様々な人と出会っていく…という感じのお話ですね。
仕事に行き詰って田舎に行ってリフレッシュして帰ってくるだけ、と書けば履いて捨てるほどありそうな再出発モノのプロットなのだが本作も大体はそんな感じである。ただ面白かったのは本作の監督であるセドリック・クラピッシュは俺が若い頃に観て結構好きだった『スパニッシュ・アパートメント』の監督で、いい意味であの頃から変わってないんだなと思えたことがうれしかったですね。本作で主人公が行く田舎のスタジオっていうのはオーナーが芸術好きな人でダンスカンパニーとか楽団とかに率先してスタジオを提供しているという設定なんだけど作中ではコンテンポラリーのダンスカンパニーが合宿しているところに主人公が居合わせることになる。この合宿感というか一つのダンスカンパニーという集団の中に色んな人がいて寝食を共にしているという雰囲気が『スパニッシュ・アパートメント』でも描かれたあの多国籍なゴチャゴチャ感を思い出したんですよね。色んな矢印で恋愛が絡んでくる青春感もそのまんまで、あぁこういう映画を撮る人だったよなぁ、と懐かしくもうれしい気持ちになったのである。
本作での恋愛描写なんかは基本的にはおまけ要素なんだけど気の毒な気がしながらも笑っちゃう勘違い描写とか入れつつ、後半はきっちり怪我から立ち直るという本筋の物語の盛り上がりと恋愛描写をリンクさせたりするサービスも入れつつで流石という感じでしたね。よく出来てますわ。
まぁただ、よく出来た再出発兼青春恋愛モノというだけならまぁまぁこんなもんかなって感じなんだが、そこにダンスという俺の好きな要素が入っているのでやや評価高めです。それが上手いか下手かはともかく、音楽に身体を合わせるのは楽しいからね。しょうがないね。面白かったです。
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