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シークレット・サンシャイン 4K レストアのolnのレビュー・感想・評価

3.0
【神とはコミュニティのルールを効率的にコンテクスト化したもの】
ジャンル:信じるかどうかは貴方次第です

配信に無い作品のため、やっと鑑賞できて感無量なのですが、どうしたって気になることがあったので、まずは苦言から。
とあるシーンで主人公がピアノを披露しますが、一切鍵盤が沈んでいなくて途轍もないノイズが生じました。せめて手元が映る部分的なフレーズだけでも弾けるようにするか、いっそ手元を映さないで欲しかったと苦言を呈しておきます。イ・チャンドンともあろうお方ならば、敢えてなのかもと思考を巡らせましたが、いや、そういうレベルの表現じゃねぇだろという解に帰結しました。

さてさて、本題です。
本作の主人公は、終始拠り所を探して彷徨っているように見えます。亡き夫に思いを馳せ、作中の決定的な事件以降は神を心に寄せ、その果てに・・・という大筋。信仰を手に入れ、心の支えができた間の彼女の表情は、作中の他のどの瞬間とも比にならないほど安らいでいました。
結局のところ、人は誰かと寄り添い合っていなければ生きていけないのかもしれません。そして、寄り添いとは対話と共感であり、つまるところ共通の話題、共通の認識があることが大切なのです。
誰かと会話する場面を想像しましょう。それが、コンテクストを共有できている古くからの友人だった場合、数年ぶりの再会だったとしても円滑に会話が成立することでしょう。
それが、初対面の人ならばどうでしょう?まず、この人とは何を話せばいいのだろうか、どこに取っ掛かりがあるのだろうかと、共通の話題を探ることから始めるでしょう。その結果、関係が続くこともあれば、それきりになることもあります。
本作の主人公は、『神』というハイパーコンテクストを手に入れ、その存在を同等のレイヤーで捉えている隣人を得ます。この結果、主人公はコミュニティに歓迎されますが、とあることをトリガーにして、信仰のレイヤーから決定的に逸脱し、コンテクストの共有が破綻します。(私個人の解釈ですが、暗黙の了解を同程度の解像度で理解している人間が集団を形成し、所属者の合意の下で運用ができている状況を『信仰』だと理解しています。)このことによって、早口で喋るオタクや、専門用語やカタカナ語を羅列するビジネスマンの如く、何こいつキモッ・・・の領域に達してしまい、途方に暮れるわけです。
ラストは神のみぞ知る的展開に至りますので、解釈は鑑賞した各々の感性に任せてぶん投げましょう。最近やっと脳に馴染んできた『コンテクスト』を用いた、何こいつキモレビューでした。
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