垂直落下式サミング

月の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

(2023年製作の映画)
2.0
綺麗事なしに描写と言えば聞こえはいいけど、この障害者施設は、あまりにも管理の行き届いていない現場のような気がする。
これが障害者福祉介護の現実なのだ、直視せよ!とでも言いたげなテンションで、全国公開規模の映画メディアが垂れ流しちゃっていいのかな?暴行や虐待がまかり通る医療現場なんて、あっていいわけねえだろ。ダメだから監視カメラ映像の告発がニュースになるわけでしっしゃろ。
時事ネタぜんぶのせ過ぎて、本来のリアリティからは遠ざかっていくのは、『闇金ウシジマくん』と似通ったスタイル。一個一個のニュースはそれぞれが個別の問題であって、複数が隣り合って存在するわけじゃないからさ。悪魔合体もほどほどにね。
相模原の植松ケースは、みんなの記憶に鮮烈に残っている事件であるから、観る人によってはショッキングであろう。
でも、我々は現実で起きたインモラルな殺傷事件の詳細を、なにも知らないに等しい。報道機関が取材によって得た情報を事実として受けとるのみであって、その残虐性を目の当たりにすることは出来ない。だから、映画にする。その志は称賛されるべきかもしれない。俳優さんの顔が、実際の犯人の容姿に似てくるの、すげえ怖かったし。
しかし、障害者の扱いはこれでいいんすか?実際に演じた人はどう思ってんだろう。人間扱いしてない気がしてモヤモヤしましたけど。彼等は意志疎通がとれないだけなのだから、まるで内面がないかのような描かれ方をされるとモヤります。
題材とした事件のセンセーショナルさだけが先にたっていて、健常者がこっち側の理屈で憐憫する視点からまったくもって逸脱できておらず、その軸足を動かさないで終わるのは残念でした。
犯人も主人公も、何者かになることに躍起になって、自分や他人の人生の価値ってもんに気づいていない。健常のくせに愚かしく不幸であるなと。
なんにもなんなくても、人は朝起きるだけでスペシャルなんだから。介護ってのは、自分の力で生活が困難な人を助けてあげるもの。だから偉いんだ。
ヒトの尊厳を守ることは正しい。この意識が抜け落ちてる時点で、お仕事映画として低品質。ろくでもない優性思想をこちらに投げ掛けてくるよりも先に、人は体温があるだけで奇跡だってなんで言えないんですか?
虐待とか暴行とか管理不行き届きのレアケースを列挙して、利用者のこと人扱いしないまま終わっちゃっていいの?何も知らなかった人が実際の現場に入って、そこで現場の実情を知りながらも奮起してがんばるんだけど、植松のようなやつが台無しにする。そういうお話でなければ、家族を殺された被害者の遺族の悲しみや、凶行を止められなかった他の職員の無念の傷跡に塩を塗りこむだけになってしまうのでは?
ホラーの手法でエンターテイメントに寄るんだったら、コイツの考え方をハッキリと断罪しないで何が映画だよと、俗悪ジャンルの枠組み使っていっちょマエに投げ掛けてきてんじゃえねと、それは挑戦ではなく逃げだぞと、僕はそう思うのだけど…。
「あなたも同じだ」って。大きなお世話だし、少なくとも人殺しとは同じじゃねえから。できるできないとか、優れてる劣ってるだとかで、人の価値が値踏みされるべきかっていったら、断固としてちがうって話ですから。
そんでもって、あんたがたのみたくないもしくは認めたくない綺麗事の積み重ねのおかげで、世界はいい方向に向かうんだから。確実に。
これだけみて、何か知った気になって「生々しい現実が撮されている」とか言い出す想像力のないヤカラや、優性思想を「一概には否定しきれないものがある」とかいう共感力のないサイコパスとは、お友だちになれねえよなあ。ヒトは進化してる。こん棒を握ったサルのままじゃあないんだよ。