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ボブ・マーリー:ONE LOVEのワンコのレビュー・感想・評価

ボブ・マーリー:ONE LOVE(2024年製作の映画)
5.0
【音楽の力⑦/ヒトはなぜ歌うのか/He Made It!】
昔、日本エアシステムという航空企業があって、航空機のデザインのカラーリングが、ジャマイカン・エアと似ていた。プロ野球の日ハムもバーニングカラーと称して似たカラーリングのユニフォームの時代があった。

懐かしい。復活して欲しい。

先般、NHK BSが「フロンティア その先に見える世界」の特集「ヒトはなぜ歌うのか」を放送していた。

ビートを予想してリズムを刻む動物は、オウムの一部に例外的な個体がいるらしいが、基本的には人間が唯一すぐれた能力を有しているらしい。

日々グルーヴして暮らしているというアフリカ原住民の部落に入った調査では、彼らが営みの中で自然と口から発せられる音は完全4度の組み合わせになり、更にそれぞれのビートが合わさってグルーヴが自然発生的に生まれることが映像として記録されていた。洗濯のような日常の作業をしている時もだ。

ご存じの通り、ジャマイカのレゲエのいくつかの源流の一つはこうしたアフリカン・ミュージックだ。

更に、こうしたグルーヴは、集団の絆を深め、集団の中で役割をこなすことによる報酬系をつかさどる脳の部位を刺激し、満足感を高めていくらしいのだ。

ボブ・ゲルドフが主導したバンド・エイドやNetflix作品「ポップスが最高に輝いた夜」に描かれた「We are the World」の録音など、たとえ音楽で人を”直接的に”救うことが出来なくても、世界中の人々の目を貧困問題に向けさせたり、何かささやかでも行動を起こさせ、それは価値のあることだと人々に認識させることが出来るのだと、音楽の力を感じさせてくれた。

また、こうした聴覚野と報酬系の神経の繋がることが強まることで、記憶障害の改善効果が得られるとの研究も進んでいるらしいのにも希望を感じる。

おそらく人は人を慮(おもんばか)ったり、共同で作業をしたりするなかで共感を得て、これまでも世界を良い方向に導いてきたのではないのか。

そして、その源流は遠い祖先から連なるグルーヴにあるとしたらどうだろうか。

歌や音楽は争いとともに発達したものではないのだ。

この「ボブ・マーリー One Love」は、そんなメッセージを物語として伝える映画作品だと思う。

ボブ・マーリーは、父親が白人で、白人に圧倒的に多い皮膚がんを自身が患ってしまうなど悲劇はあったが、おそらく自身が世界中にメッセージを伝えるような多様な存在だと認識することも出来ていたんじゃないかと考えたりする。

ヒトはなぜ歌うのか。アフリカン・ミュージックを源流に持つレゲエのシンガーとして、歌で世界中にメッセージを届けたボブ・マーリーに想いをはせる作品だ。

HE MADE IT!



※映画とは直接関係ないけれども、先般亡くなられた小澤征爾さんについて報じた朝日新聞デジタルの”小澤征爾さんと脳に障害を持つ早逝した少女との交流”についての記事について少しだけ触れさせてほしい。

少女の名前はみきさん。本物の芸術に触れることで機能回復に繋がるかもしれないとの話を聞き、これを期待して小澤征爾さん指揮のボストン交響楽団の来日公演に親子で出かけたのだが、小澤征爾さんが、話すことが出来ないみきさんがサイン会の列の最後尾にいるのを見つけ、歩み寄り、手を取り、目を見つめ、「また来てね」と、それから小澤征爾さんは何度も彼女を公演に招いたのだそうだ。

コンサート中にテンカンの発作を起こすことは一度もなかったということで音楽の力を感じるが、彼女は16歳で早逝してしまう。

その訃報を聞いた小澤征爾さんが、彼女に宛てた手紙だ。

「みきちゃん なんでぼくがこんなてがみ書くかと云うと、これを書けばみきちゃんともっと友達になれると思うからです。みきちゃん、あなたの眼を想い出してます。あなたの眼の中の友達だったと想います。これからはもっと気持の中の友達になりましょう。私はなります。あなたに会へたのを幸せにおもいます。みきちゃん、あなたが音楽を好きなのがうれしいです。私の勝手ですが、私がくたびれきった時、あなたのこと想います。どうか、これからは安らかにすごして下さい。 小澤征爾」

みきさんと小澤征爾さんは、きっとあちらの世界で再び出会っていると思う。

ボブ・マーリーはジョン・レノンと会っているだろうか。
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