開明獣

ママと娼婦 4Kデジタルリマスター版の開明獣のレビュー・感想・評価

5.0
43歳で拳銃自殺してしまった、フランス伝説の映像作家、ジャン・ユスターシュ作品初挑戦😳

現在公開中のスコセッシの「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」を長い長いと散々ブーたれておきながら、それより13分長い本作を観ちゃう開明獣って我ながらお茶目🤣

主演は、存在そのものが現代映画史と言っても過言ではない仏の名優ジャン=ピエール・レオ。トリュフォー、ゴダールなど仏の巨匠だけでなく、伊のパゾリーニ作品や芬のカウリスマキ作品にも出演している重鎮中の重鎮の若き日の姿が見られる😌

いかにも70年代のフランスのインテリが創った作品らしく、ホルヘ・ルイ・ボルヘスからの引用、ロバート・マッコールも読んでいたマルセル・プルーストの「失われた時を求めて」、仏の映像作家ロベール・ブレッソンへの言及、プログレッシブ・ロックの名盤「クリムゾン・キングの宮殿」のジャケット、70年代に入ってからは定番のアンガージュマン、サルトルへの批判、などなど、ペダンティックな小道具を見てるだけでも飽きない。一番驚いたのは、ブリティッシュ・ハードロックの雄、ディープ・パープルがオーケストラと競演した時のアルバムがかかっていたこと。ギタリストのブラックモアのフレージングで気づいたが、この頃はストラトではなくES335のハムバッカーサウンドなので、ちと戸惑う💦

閑話休題

働くことを拒み、ヒモとして生きている色男のアレクサンドルは、口先だけは達者だが中身は全くない空っぽな男。マリーという年上の女性の家で同棲しているのに、他の女性に片端から色目を使い、女性と寝ることを至上の悦びとしている。そんなアレクサンドルに時折激怒はするが、愛想も尽かさず同棲を許すマリー。そこに、ヴェロニカという、誰とでも寝ることを公言して憚らないエピキュリアンな麻酔士が加わり奇妙な三角形が形成される。

どうせ死んでいく人生ならば、好きなことをやろうという刹那的で退廃的な生き方はユスターシュ自身の経験を投影したものだという。ヴェロニカのモデルとなった、ユスターシュと関係のあった美術担当の女性は、本作の完成後に、作品に最大の賛辞を贈りながらも自死してしまったそうだ。

倫理的にはとても共感出来ない、3人の男女の生き様の背後には常に死の影がちらついているようだ。30代くらいまでだったら、本作を全否定していたかもしれない。だが、自分の周りや自分自身もある程度、人生の行く末が見えてきた今、本作をただの堕落した低モラルの作品と切り捨てるような感情は浮かんでこなかった。

粗削りながら、感情剥き出しにぶつけてくる台詞の多い脚本にいつしか魅力され、長さを忘れて魅入ってしまったことを告白しておこう。経年による影響は劣化だけではなく、時に成熟という結果も伴うということなのかもしれない😌

フィルマ王国で、開明獣のフランス映画の先生のお一人、bennoさんが、4K版ではない方に素晴らしいレビューを書いておられますので、本作にご興味ある方はそちらも是非‼️
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