垂直落下式サミング

市子の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

市子(2023年製作の映画)
4.0
突如姿を消した市子という女性の過去や秘密を周囲の人間が絡み紐解いて行く形式のヒューマンサスペンス。
相手の好意がホンモノか確かめるために、わたしの不幸を背負えんのかって迫って、必要以上にドン引きさせてしまう市子。
好きだ愛だと言うけれど、ホントに相手の腹の中なんてわかるのかね。いつだって人は外側しか見れていなくて、というか見れないから、まるっとすべて愛し合えるなんてものは遠い理想。それがわかっていながら、相手には共感と理解を求めてしまうのに、どうしてもほんとうの自分はみせられないという矛盾を描いている。
社会の底の表面化してこない惨状を扱っているが、同時にきわめて異質な人間を描いたサイコスリラーとも取れる要素を兼ね備えているのが、重層的で気に入った。
あと、純朴の皮をかぶった市子の言葉の魔性にも言及しときたい。

「うち、ケーキ好きや。」
「わたし、花火好き。」
「屋台の焼きそばが、好きなんです。」
「浴衣…、かわいいな。」

杉咲花のコケティッシュまん丸フェイスから放たれる「好き」これが直撃したら、おたくらの人生は終わりってこと。そういうわけよ。
「自分は○○が好きなの。」これを、平気な顔でやってくる女は罪作りですよ。意識的か無意識かに関わらず。悪い女だ。ちょっとした好みの自己開示をするだけで、相手が勝手に勘違いして、自分にとって都合のいい好意が得られることを知ってらっしゃるんだから。そんで、僕らは人生棒に振るくらい、そいつのこと好きになっちゃうんだから。
過去の女に未練ずるずるでいつまでもキリなくリハビリ中なワイの目には、どんなヒューマンドラマであっても男女の失恋とか離別が描かれるだけで、かつてあった最高の時間はもう手に入んないんだって、そういう悲劇のはなしに置き換わってしまうのですわ。こう見えて恋愛体質やねん。しゃーないやん。オカン、俺こんなんなる思わんかったわ。