この"問い"と向き合おう
濱口竜介監督最新作。書きたいことは沢山あるはずなのに言語化するのが難しい。それほど重厚感のある物語。特に大きなストーリーラインがあるわけではないのに、思わずスクリーンに自分を投影してしまいそうになる。単刀直入に言うと「面白い映画」でした。
都会と田舎。2つのコミュニティの対立が表面上の軸で、本来の軸はもっとディープな場所にある「自然と人間の共存」の在り方。自然の原理にどこまで適応できるか、攻め込むことができるかの対比として町の住民と都会の人が登場しているのではないか。意味深なラストも含め、かなり考えさせられる構成になっています。
相変わらず映像の撮り方が異次元。本作では長回しシーンが目立ちますが、それでも意外な角度から綺麗に撮る。水も透き通りすぎていて、思わずスクリーンから森の匂いが漂ってきます。それほどナチュラルでリアル。そしてリアルなのは他にもあり、キャスト陣の演技がすごい。あそこまで良い演技力を超えて、ただの自然体にしか見えなくなるのは『ドライブ・マイ・カー』『偶然と想像』でも通ずる濱口監督ならではの手法。少しだけ違和感を覚えるものの、目と耳だけは映画の手を離さない。間違いなく濱口監督は映像、脚本、演技を巧みに使いこなす魔法使いです。
そこに追い討ちをかけるかのように加わるのが石橋英子の楽曲。今回は彼女の音が耳に残る。冒頭とラスト。どちらも画としての力はないものの、バックに音楽が流れているから壮大になる。正直何分でも耐えれる自信があります。映像と楽曲のみ(しかも生演奏)のサイレント版(『GIFT』)も観てみたかった。
具体的にこのシーンが良い!などは言い難いですが、全体的に面白かったと言えるのはたしか。僕の中でも濱口竜介監督の地位が更にワンランクアップしました。今後、もっと期待期が高まるかも。
2024.5.13 初鑑賞