Jellyfish

人間の境界のJellyfishのレビュー・感想・評価

人間の境界(2023年製作の映画)
5.0
2021年、ベラルーシのルカシェンコ独裁政権が隣国ポーランドに対して行った難民爆弾政策を、ドキュメンタリー タッチで描いた劇映画。
勝手にドキュメンタリーだと思っていたので、冒頭の機内のシーンを見て「なんだ劇映画なのか」と一瞬ガッカリ。ところが終わってみれば、これが年間ベスト級の傑作。

アバンタイトルの森の映像以外全編モノクロの本作は、3つの視点で描かれる。
1 シリア難民一家
2 ポーランド国境警備隊員
3 アクティビスト
それぞれ厚みがあるが、特に難民の視点。『ニューオーダー』(2022) にも似た、家畜のように鼻面を引きずり回される感覚が凄まじい。

難民に対峙するポーランド側には様々な人物が登場する。
・躊躇なく排斥に加担する人
・躊躇しながらも排斥する人
・無関心を決め込む人
・同情はするが、関わりを拒む人
・体制に居ながら密かに支援する人
・合法的に支援する人
・合法・非合法を問わず支援する人
このグラデーション (「境界」) がこの物語の生命線。

2022年に起きた別の事件で、ポーランドが手のひらを返したような対応をするラストは実に皮肉。難民にも良い難民と悪い難民の「境界」があるのだ。
終盤に描かれる次の世代の人々が微かな希望。

難民問題を多層的・多面的に描いて、150分を一気に走り切る作劇が見事。もっと多くの人に見られるべき作品。
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