きみどり

雪山の絆のきみどりのレビュー・感想・評価

雪山の絆(2023年製作の映画)
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過去にいくつも伝記やルポルタージュが書かれ、映像作品が作られてきた、「ウルグアイ空軍機571便遭難事故」の映画。

この遭難事故はどうしても人肉食のことばかり取り沙汰されてきたので、72日間の過酷なサバイバルや、救助を呼ぶための決死行の詳細をろくに知らなかったな…。彼らがタブーを犯すまで(犯してからも)の葛藤に、思わず涙してしまった。

医大生がいたこと、大学のラグビー部員たちの体力とチームワークがあったことなど、生き残れた要素はいくつもある。でも、あの状況下で『蝿の王』みたいなことにならず、お互いを庇い合いながら生き延びたのを見ると、人間性悪説が揺らぐ。
遺跡などから発掘された大昔の人骨の中には、大腿骨の骨折治癒の痕が残るものがあるという。その人は仲間に安全な所まで運んでもらい、治るまで世話をしてもらったということ。今よりずっと生存が過酷だった時代に。人間って不思議だ。平気で殺し合うのに、犠牲を払っても助けようとすることもある。

終始、雪山で生き延びようと力を尽くす彼らの内面にフォーカスしていてブレがない。救助が間に合わず亡くなってしまった一人が「神の視点」で語り手になる構造も良かった。

実際には、彼らは世間に英雄に祭り上げられた後、生きるための行為が知られるやそれはひどい誹謗中傷に替わり、長く苦しんだとのこと。その辺りの描写が省かれていたことも、長尺にも関わらず緊張感が最後まで持続した理由かも。
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