◎アンチウェルメイドなジュブナイル・ノワール
高良健吾(1987- 今年36歳)の演技が好きだ。
30代の中堅俳優で、顔よし、演技よしの演技派二枚目の筆頭として高良をあげることに異論は少ないだろう。
ひと頃は、高良の出演作を、年に何本も劇場で観たような気がする。
最近は、若手俳優の主力が菅田将暉に代表されるゴールデンエイジ、30歳以下の層に移りつつあるせいか、彼を主役級で見ることは少なくなったように思える。
そこで待望の本作。
エンドクレジットの最初は高良である。
演ずる役名は阪本春。
【以下ネタバレ注意⚠️】
春は、14歳のときに同級生3人で犯した殺人の罪を、一人で背負って服役。
出所後は半グレの若者たちを世話しつつ組織し、弁当屋や土木事業などを経営する地元の若き顔役になっている。
地回りのヤクザに対しても一歩も引かず、堂々と張り合い、時には子分を使った汚い手を下すことも躊躇しない。
高良は、この屈託の多い複雑な人物を、見事に作り込んだ演技設計のもと、期待どおり陰影に富んだ抑えた表情で見せつけてくれる。
本作が初監督作となった齊藤勇起(40歳)は、高良の出演快諾によって、本作の企画も信頼され、資金集めもうまく行くようになったとインタビューで語っている(文末リンク参照)。
しかし、本作の終盤に至って、
「いや、本当のメインは、大東俊介(37歳)ではないか」
と、高良ファンでありながら、大東の演技に圧倒されてしまった。
本作は、中学生だった阪本春(高良)、吉田晃(大東)、朝倉朔(石田卓也37歳)の3人が、仲間の正樹が殺された仇を討つために犯した「罪」をアバンタイトルで示し、その22年後に30代半ばとなった3人を軸に、新たな事件の展開と過去の事件の真相解明を見せるノワール・クライム・ミステリーである。
大東演ずる晃は、父親と同じ警察官となり、ちょうど転勤で郷里に帰って来たところだった。
晃は、公務とは別に、今は農業にいそしむ朔に出会って、22年前からの思いを打ち明けあう。
春との再会は遅れ、ヤクザの金をくすねて焼きを入れられていた小林少年の死体が発見されたことの真相を追及するために、晃は春の事務所を訪ねることに。
小林の死体は、ちょうど22年前の正樹と同じ河原で、その時と同じ姿勢で横たえられていた。
事務所では、
「20年前の同級生だったからって、昔と同じように話せると思うなよ」
とコワモテで対面する春。
しかし、かつての通学路だった橋の上で、問題の河原を見下ろしながら、晃と春は、ようやく心のうちを語り合うことができるのだった。
その時の晃=大東の奥底に秘めた苦悩を絞り出したかのような歪んだ表情が忘れられない。
晃の苦しみが、悔恨が、こちらに迫って来て、涙腺を刺激した。
間違いなく、大東俊介のベストアクトである。
ミステリーは、思わぬ「解決」を見せて終わる。
謎を解くキーは、正樹の財布が小林少年の遺体とともに発見されたことだった。
22年前の正樹の死体遺棄も、今回の小林の殺害も(引きこもりだった弟の直哉の殺害も)、朔の仕業だろう、と春と晃は、朔に詰め寄るのだった。
お前らの妄想だ、と否定し続ける朔。
晃と春をあとに、ひとり立ち去ったかと思った矢先、トラックが朔を‥‥
いかにも、このラストは、使い古されたご都合主義のそれで、いただけない。
二つの事件の真相も、これで明らかになったのか、真犯人の罪は問われないのか、など未回収の点が多過ぎることもレビュアーたちが指摘している通りだ。
演技陣では、特別出演の佐藤浩一は、ヤクザの組長を演じて、さすがに静かな凄味を見せてくれた。
晃の上司の佐藤補佐は、椎名桔平。
『アウトレイジ』の小日向文世に相当する、ヤクザや半グレ、受刑者と私的につながる裏の顔を持つ刑事だ。
ところが、山河緑豊かな地方都市の刑事であるにも関わらず、椎名はどう見ても田舎刑事としては浮きまくり、東京圏のチャラいマッポにしか見えない。
そもそも本作の舞台は齊藤監督の故郷である福井。
今回、県をあげて映画撮影に協力してくれた、とインタビューで語られている。
ところが、本作での話し言葉は、一部で関西なまりが聞こえてくるものの、ほとんどが標準語で福井方言ではない。
また、登場するヤクザや半グレも、ありきたりの表現で、特に福井色はない。
せっかく監督ゆかりの地方を舞台としながら美しい景観以外には地の利を活かせているとは思えない。
以上見たように、本作は、数えれば欠点も多い作品ではある。
また、作品としてはオリジナルとされているが、全体として、『ミスティック・リバー』(03)や『殺人の追憶』(03)、『ヒート』(95)などを彷彿とさせることも、すでに指摘されている(文末リンク記事)。
しかし、BGMを最小限におさえ、シーンごとにブツブツと切れる編集、うまく見せようとしない無骨な演出は、総じて好感触を産み、「どこかで観たような」という既視感を抱かせない効果をもたらした。
ウェルメイドを排した手づくりのドラマの味わいが画面と物語への興味を惹きつけてやまないのだ。
(※投稿後に視聴したが、YouTubeチャンネル シネマサロンの評が最も共感する点が多い内容だったため文末にリンクした。2024.3.5 )
スコアは、せいぜい3.7 あたりが妥当なところではある。
だが、初監督作にして、ウェルメイドに逃げず、味わい濃厚なドラマを魅せてくれたことを是として加点したい。
よって、
3.7 + 0.3 = 4.0
で、4.0 をスコアとする。
最後にひとつ。
ミステリーの最後で、中学生の正樹と朔が、町はずれのアバラ家に独り住む老人「おんさん」にレイプされた事実が明らかにされる。
そう言えば、小生の小中学生時代も、地域に徘徊する「ホームレスのおじさん」のことがよく話題になっていたものだ。
地域共同体から疎外された独居老人。
小児性愛者による少年レイプ。
現在的なセンシティブな題材であり、扱いを間違えれば、取り返しのつかない失点となり得る。
しかし、本作ではウェルメイドを排したことが功を奏したのか、地方都市の暗部として、この陰惨な性加害と、その反発としての不幸な殺人とが、リアリティをもって迫ってきた。
男子中学生が、老いた男性にレイプされたことの負い目が新たな犯罪を次々と招いていく。
昨年来の経緯が明らかになっても、高齢になっても性加害を続けたジャニー喜多川の罪や、男性の性被害の存在自体を認めようとしない声が一部界隈にあるらしい。
そういう人こそ、本作に触れて欲しい。
そう思う、今日この頃である。
《参考》
『罪と悪』齊藤勇起監督 オリジナルにこだわったデビュー作【Director’s Interview Vol.383】
2024.02.0 香田史生
cinemore.jp/jp/news-feature/3333/article_p1.html
【罪と悪】初監督なのに剛腕!でも○○に欠ける
シネマサロン 映画業界ヒットの裏側 2023.2.13
m.youtube.com/watch?v=-89Znib1Dk8&pp=ygUY44Os44OT44Ol44O844CA572q44Go5oKq