垂直落下式サミング

SFソードキルの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

SFソードキル(1984年製作の映画)
4.0
氷衝けになっていた侍が数百年後のアメリカの科学者の手によって解凍され復活。施設を抜け出し事件を巻き起こしていく浦島太郎映画。
一歩間違えば珍作・珍品になっていたこの作品をカルト足らしめているのは、侍ヨシミツを演じた藤岡弘の存在である。彼が演じる侍は、アメリカ人が思い描くエキセントリックなバンザイ日本人とは一線を画している。ちょんまげを結い腰にサムライソードを携えた姿はまさに士(さぶらい)や兵(つわもの)のそれだ。現代のアメリカに蘇った侍。彼の異質な価値観、対話不能な風貌、質実剛健な立ち居振る舞いが、藤岡弘の演技によって違和感なく実像をもって肉付けされ、単なるJapanese warriorと訳すことは出来ないただならぬアトモスフィアを放っているのである。何でも製作時に藤岡弘があまりに陳腐な侍描写を正すようストーリーに口を出し、通訳を通じて脚本の書き直しが行われたらしい。結果、本作は他の外国映画で描かれるおかしな日本イメージを払拭し、映画に真の武士道精神もといフジオカヒロシズムを吹き込むこととなったのだ。裏を返せば、もし誰も口を出さなかったのならカブキマンになっていたのだと思うと寒気がする。
自身も武道家である藤岡弘にしか再現できなかったであろう居合いや当て身といった殺陣の体捌きも見事で、テレビや街灯といった近代のテクノロジーに驚嘆する侍の演技に到るまでいちいち説得力がある。しかしながら、この侍がロサンゼルスの町を阿鼻叫喚の大混乱に陥れるわけでも、悪漢を次々と蹴散らし驚天動地の大活躍をする痛快活劇というわけでもなく、彼は自分がなぜそこにいるのかも分からないままトラブルに巻き込まれ、最後には出動した警官隊に射殺されてしまう。侍に超人的な力や主人公性を与えず、SFとして徹底的にリアルに描いたところが潔い。実際には前時代の異邦人ひとりが異物として文明社会に入り込んだところでたいして影響などなく、『刃牙道』に登場する宮本武蔵でもない限り翻弄されるのは彼の方だ。ある種この作品も『キングコング』フォロワー作品といえる。
「武士道とは死ぬことと見つけたり」
侍ヨシミツは、まさに藤岡氏の考える“もののふの道”を投影した入魂のキャラクターであった。『ラスト・サムライ』の10年も前の作品だと思うと胸が熱くなる。