晴れない空の降らない雨

ルパン三世 カリオストロの城の晴れない空の降らない雨のレビュー・感想・評価

5.0
■経緯とか
 1978年4~10月まで放送された『未来少年コナン』の後、宮崎駿はふたたび高畑勲のもとで世界名作劇場のレイアウトに戻っていた。『赤毛のアン』(1979)だが、宮崎は15話で離脱してしまう。宮崎本人は「アンは嫌いだ」と述べているが、監督として自立したのにレイアウトに戻るのは本意でなかっただろうし、名劇路線にこれ以上付き合いきれなかったことが大きいだろう(『アン』は名劇の中でも話に起伏がなかった気がする)。
 離脱の理由となった『ルパン』の劇場版第2作は、当初演出を依頼されていた大塚康生の頼みで引き受けたらしい。というわけで、宮崎駿監督による劇場アニメーション第1号が生まれた。当時興行的には振るわなかったが、海を渡ってディズニーのスタッフらに衝撃を与え、マスカー&クレメンツ監督は『オリビアちゃんの大冒険』のクライマックスで本作にオマージュを捧げている。
 

■話とか影響とか
 ストーリーの骨子は『長靴をはいた猫』以来散々やりつくされた「乙女救出劇」ですね~という印象。事実、宮崎自身が「ルパンや東映時代にやったことの大たなざらえなんですよ」と語っている。
 だが、ヨーロッパの小都市風の背景、天から地下までの垂直構造という宮崎的世界観のもとで作り直されたことで、そしてもちろんアニメーションの実力の向上によって、過去の作品よりもはるかに視覚的快楽と活劇性を獲得している。宮崎は、本作を「舞台となる小国の湖と城の鳥瞰図を描くところから始めた」と語っている。それと銭形のアレをはじめ気障な名言が次々に出てくるのも本作の魅力だ。とにかく観た人を「なんて気持ちのいいアニメだろう」という気持ちにしてくれる。
 また、途中から演出を担当した第1シリーズの要素が接合され練り直されている。特に第10話「ニセ札つくりを狙え!」から持ってきた設定とシチュが多い。小国、歯車うごめく時計塔、偽札作り、ルパンがばらまく紙幣など。このあたりは近年になって挿絵を描いていた江戸川乱歩の『幽霊塔』からの影響も濃い。乙女救出劇も11話や21話でやっている。
 その他、エレベーター付きの城、強制結婚式と実況中継、花嫁泥棒はもちろん『やぶにらみの暴君』(『王と鳥』)へのオマージュ。まぁ影響関係はこの辺にしておきましょう。
 
 
■作画とか演出とか
 かなりの突貫工事でつくったらしいが、後年の『風の谷のナウシカ』よりもクオリティが高い気がする。『ナウシカ』は馴染みのスタッフが使えず、新人を多く起用しなければならなかったらしい(その中に庵野もいた)。それに対して『カリオストロ』は『コナン』からの続投が多い(『アン』から引き抜きまくった)。
 とくに美術部門を見比べると、本作はよく描き込まれていて感動的なクオリティだ。『コナン』の山本二三が美術監督であり、当然ながら苦楽を共にした相手の方がコミュニケーションも円滑に進み、それがクオリティに反映されるということだろう。

 宮崎アニメが一般に「よく動く」というのは事実だが、無論コアなアニメファンを喜ばせるため(だけ)に動いているわけではない。スペクタクルを演じる派手な動き、リアリティを与えるための丁寧で細かい動き、キャラクターの個性を表現する動き、ちょっとした笑いを生むための動きなど、さまざまな動きがある。
 どこを切り取ってもよいのだが、例えば序盤の伝説的なカーチェイスに入る直前の2カットで、急発進したルパンのフィアット500に次元が大慌てで乗り込み、荷物を車内に仕舞う動きが描かれている。このアニメーションは次元の感情をコミカルに表現しているし、ルパンに振り回される彼のポジションを表わしてもいる。こういうディテールが満載だから画面を観ているだけで面白くなる。
 アクション芝居にしても、走る、跳ねる、落ちる、泳ぐ、飛ぶと種類豊富なアクロバットが詰め込まれており、そのアクション固有の動かし方やシチュや緊張感がちゃんと作画に反映されている。「ジブリの食べ物はうまそう」と言われるようになったのも、本作のスパゲッティ争奪戦からだ。
 
 多分『コナン』で始めた演出だと思うが、ルパンが打上花火を炸裂させるシーンでは、画面全体が光を受けた部分と影部分の2色になり、白飛びしたような画面になる。これは以降の作品でも結構出てきたと思う。
 それと宮崎の専売特許ではないが、『コナン』に引きつづきハーモニー処理も要所要所で使われる。
 そうそう、今まで言及してこなかったけど背景動画も、宮崎作品のアニメーションが「気持ちいい」理由のひとつだ。主観ショットぽく描けて疾走感が出る。ただ、画面のリッチさは損なわれがちなので、使い所をうまく選んでいる。