こたつむり

希望の国のこたつむりのレビュー・感想・評価

希望の国(2012年製作の映画)
3.8
♪ 「日本の原発は安全です」
  さっぱりわかんねえ 根拠がねえ
  これが最後のサマータイム・ブルース

“希望”という言葉。
そこに何を見出すかは十人十色ですが、僕が想像するのは、闇の淵で空を見上げてツツツと垂れてきた蜘蛛の糸。これが僕にとっての“希望”です。

基本的に根が暗いのでしょう。
傷つくのが嫌だから、悲観的で、保守的なのです。だけど夢を見るのは好き。陽の光に照らされて輝く笑顔を見るのも好き。根は暗いけど、闇に同化したがるけど。それでも“光”は否定しません。

さて、本作のタイトルは『希望の国』。
僕の感覚で言えば、か細い光に照らされた国を想像しますが、実際は東日本大震災の原発事故から着想した物語。はたして、そこに“光”はあるのでしょうか。

何しろ、仕上げたのは園子音監督。
どんなに感動大作を装っても、基本的な姿勢は“殴りかかってくる”スタイルですからね。このタイトルも“皮肉”と捉えたほうが無難です。そして、案の定、気を許せば鼻血が出るほど殴ってきました。

特に終盤の展開は白眉。
三段跳び論法のような“極端”な筆運びで大半の観客を振り落としにかかってきます。相変わらず一筋縄でいかない監督さんです。

ただ、その根底に流れているのは父性の優しさ。厳しいけれども憎しみがあるのではなく。「千尋の谷から這い上がれ」と言いたいのだと思います。たぶん。

それに我々日本人…というか、人類が“過ち”を犯したのは事実。科学万能と尊ばれる時代でも、その根本的な原理すら解明できない人類が放射能を取り扱うなんて勘違いも甚だしい話。それを認めるところから始めた方が良いと思いました。

まあ、そんなわけで。
9年前は放射能、今は新型コロナウィルス。
目に見えないものを恐れる…それは目に見えないものを軽視してきた人類への警告。本作をきっかけに思索に耽れば…もしかしたら、蜘蛛の糸を見つけることが出来るのかも。それが希望。
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