うめまつ

ウェイトレス 〜おいしい人生のつくりかたのうめまつのレビュー・感想・評価

4.2
終始モラハラDV束縛旦那に殺意を抱き続けながら、妊婦(主人公)と産婦人科医の不倫を見続けるという、最低と最悪をドロドロに煮詰めた濃厚カラメルソースのような設定なのに、不思議なほど後味は爽やか。まず主人公ジェナが《パイ作りの天才》という設定が絶妙で良い。現実逃避する時に脳内で新作のパイを延々と考案するのが楽しい。特にその力で現実を打破する訳ではなくとも、どんなに辛い時でも夢中になれるものがあるのは救いだ。「超自然的で官能的で、世界から争いをなくせるほど美味しいパイ」を私も食べてみたい。

テーマの割には深刻過ぎず明る過ぎず、軽妙な会話の中にも悲しみが隠れていて、テンポは良いけど気持ちは置いて行かず、みんな癖が強くて変だけど端役まで血が通っていて、ラストには爽快なカタルシスまで頂ける、とても良く出来た構成の作品だと思う。108分に収まっているのも素晴らしい。甘いラブコメみたいなパッケージだけど焦点は恋愛ではなく、女性が男性からの従属や依存を断ち切り自立して行く姿を鮮やかに描いている。だから間違いだらけでもみっともなくても最後にはジェナの事を応援しているし、こちらまで背中を押されたような気持ちになった。

この物語はブロードウェイでミュージカル化されてて、日本でも上映されてるくらいの人気作品らしいので、今さらエイドリアンシェリー(監督脚本出演)目当てで見ている私は少数派なのかもしれないけど、彼女が今も生きていたら、こんな素敵な作品をまだまだ作ってくれていたのかもと思うと切ない。「1秒たりとも人生は交換できない」という台詞が好き。
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