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毒流
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『毒流』に投稿された感想・評価

[邦題が厳つい] 60点

ハリウッド黎明期に活躍した女性監督ロイス・ウェバーのキャリアでも比較的有名な作品。毒々しい名前だが、原題"靴"の方が明らかに分かりやすい。主人公エヴァは100円ショップの売り子で、絶賛失業中でボヘミアンな生活を送っている父親を尻目に家族全員を養っている。そんな彼女の靴はボロボロで、底には大きな穴が開いている状態なのだが、買い替える金すらない。という話。"靴に穴が開いてるって?じゃあ大雨降らせるしかねえな!"というありがたい配慮の下、引くほどの雨が降るシーンでは、ビシャビシャの歩道を歩く足にクローズアップしながらトラッキングというアクロバティックさに惚れる。あと有名な割れた鏡のショットも良い。キャバレーの階段に敷いてあるカーペットを踏んで"柔らかさと滑らかさが疲れた足に染みる"って字幕が出たときに泣きたくなった。でも、ラストが中々鬼畜なので全体的な印象はそこまで。ロイス・ウェバーなら『Suspense』が好き。
✔『毒流』(4.2p)『偽善者』(4.0p)『賢すぎる妻たち』(3.8p)▶️▶️ 

  これまで一度と言わず観ている、サイレントではポピュラーな作『毒流』だが、細かく力あるも、貧しさや生活の重さがちと辛い、自然主義文学的なヘビーを覚悟してたが、この前に観た『偽善者』の空想的·抽象的バランスの浮遊度のせいか、おそらく長さも画質もこれまでよりはマシなせいか、映画史上最も美しく、手触りも確かな映画を感じていた。その手の最高峰のレイやヴェンダース(師弟)を、考えようによっては上回るような。とにかく、カメラのアングル·サイズ·動かし方、頼るのではなくその軽さを隠さない特撮の呼込み効果、鏡や窓ガラスや雨のふり方や·髪と靴の形や·反動反転と無縁の表情らの押さえ方、抜き差しならぬという奴だ。沖縄·貧しさ·女に生まれた事を劣等から誇りに変えてく、今の朝ドラ『ちむどんどん』の裏返しみたいな作(男家族は働き口なく、女らが一手に)だが、こっちはタッチの確かさが外形とは別に環境を透明に食い破ってく。川口春奈=黒沢清でリメイクでもしてほしいくらいだ(黒沢作品での、川口·東出のすさみ具合は格別だ)。
 貧しい実家アパートのダイニングや姉妹3人一緒寝室等の対応や、その玄関辺や階段辺、売り子の職場·ロッカー·ウィンドーショッピング、ダンスホールらの美術の厚み·良くも悪しくも実の詰まり方。(歩いてくローフォローもある)靴や表情の寄り·アップ·角度の入れの確かさ、雨の強さや自分が映される鏡面·夢の中で襲い来る巨大な鷲掴み手OLらの力の鋭さ。破れた靴を買うのに納めた中から一部戻す約束を守らずも動揺ない母が·その直接描写なくも戻ってきた娘の沈みを受け止め·涙に身を売ったを察して当面を導いてやるくだり(それでも、「家の庭で咲くべき花はそうならず、汚れや暗さから抜け出せぬ人生が続く」とか括られる)。とにかく、店で販売中でも、細やかな心理や状況でサイズや角度、(身体の)部位の切り替わり·より緊密さを加えるデクパージュが殆んど完全でそのレベルが一瞬とも途切れない。カメラな移動やパン·ティルトは『偽善者』に比べると大人しく飛翔してゆかないが、題材との距離は強まってる。ダンスホール等のフロアや人らの配置·動きの深い広い不可思議な縦の構図は、あり得ない芳醇な懐ろを何気に実現してて、繰返される。
人物たちはあからさまな感情·表情表現は出さず、控えめや傲慢等、キャラ毎に陽気もフランクな人も、そのまま半ば凍てついたままで、予感レベルが滲み出るを受け止めるようにこちらも生活感情ベースを変えられてゆく。荘厳でインティミット、深く強い何かに届くを感じ合ってく。
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 その前に観た同じ時代のサイレント『偽善者』の自由さ·筆致は、今の映画の中に置いても、際立って重ったるい現実重視から乖離している。話自体は、真面目過ぎて、重さを超えて、どっかに抜け出て行きそうなもの。神しか見えない(喝破できない)「偽善」が覆い尽くし、「真実」を分からず求めない、人の世。現代の、説教を伝えきれねジレンマ·苦悩してく若き神父と、人々を鏡の中の真実、それに届く天上の山の高みへ、導かんとする中世の苦行増ガブリエルが、並行というか、手を携え作品を築いてく。ここでの映画の視覚的「真実」は裸体の女性の形をとり、冒頭からO·Lで何の恥じらい·臆する所なく、真実への流れの顕在化に自ら手を貸してく、決して飽きる事もなく。しかし、鏡の中の真実は、膨大な人の列に拘らず過半の人々の期待を裏切り、大修道院長の列席·多数の民が見守る、神父の真実の可視への創造、裸婦像は、人々をたじろがせ怒らせる。
 O·L処理とはいえどこも隠す事もしないナマの裸婦の暗躍か活躍、の圧巻呆れや、教会の礼拝堂~(聖歌隊)女子更衣室~玄関や、横に伸びる道と縦に続く高山の上がり段とそれを埋める人々の限りないスケール、などの美術はあれど、細かなDISでの変移や上がってくイメージや時制切替り、鏡の中·瞳の中の鏡と像·等の高度で複層の強い合成、O·Lも真実を表すも一般には不可視の裸女·他存分、何よりディルト·パン·移動のカメラの動きは対象のあと少しの達成を助け·また相互や関係を浮遊·泳ぐが如くに自在に塗り替えて、またフィットも微細で弛まない。逆光自然の軽みと反転性も美しい。今の映画のメカニック本位の実は狭い狙い本位を引き離してる、それら、構図の隅や奥まで(逆に手前の者の寄り姿越しも普通に)の鋭い透明感·カッティングの滞りなさ、も含めた、映画叙述の限りない可能性の実践は、暗めで自虐的内容を、逆の方へ転化·開放もしてく。なにせこの作によると、真実とは自然な豊満な裸婦なのだ。
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 それから数年、’20年代初めには、個人に限らず、映画史の流れの到達点を達し、映画言語を完成しているを、『賢す~』で確認する。その美と確かさは例を見ない。特にたまたま保存状態の良くないパートだが、夫婦への冷徹な作家·記録者の描破の前半でそれを感じた。
 共に使用人も使い、窓硝子も壁1面を覆う、社会的地位も上流の、二組の夫婦。相手の真の心持ち迄及ばない·自分勝手な面脱せぬ儘の好意·愛の表現の心尽くし、その不備を深くは正さずにその儘はっきりせず受け容れてはゆく、その見えない溝が深まるを少しずつヒシヒシと感じあい、自虐にも至ってる一組。内なる愛や充実は薄くとも、相手の有能(を本位ではなくも果たしてる)に感謝し、実際役立ってるも、羽根の伸ばしも裏でしてるもう一組。トゥショットでの身の乗り出しの加減、その寄りの押えや·細部や物のアップ、斜めめの対応、そしてはっきり90°変しての正面アップ、の切り返し。嘗てのトリッキー·ギミックは世の恒に併せ封じての、一般デクパージュだけに拠ってるが、そのテクニックでなく、内の情が形を導き、二組の転換·料理指示のドンデン、対称より類似と若干の差異で切り替えられる。これだけ全体を守り、細部を内から際立て、内へ沈み込ませ、ならす·ならしてはいないタッチは、現在迄もなされておらず、同質の『孔雀夫人』『めぐり逢い』『エイジ·オブ~』らを明らかに上回る筆致の確信がある。
 ただ、二組の夫婦の夫同士は旧知、妻らには共通の友あり、嘗ての完全に切れてない愛人関係も跨いで一応秘密でモヤモヤ、で察知されてく緊迫も生まれんとはしてる。よりを戻すのもと、片方の妻が手紙伝えや密会の場の算段をしてくる後半は、ショット·図·角度·流れは正対よりも、美しく巧みに軌跡の腕前を見せてくようになり、本質へ向かう力が少し弱まってく感がした。感づくも·読まれない儘でしまわれる手紙と、2組が一緒の場から一方の夫が離れる筈が汽車が遅れ·戻る用も、で団円らしきへ。「小心と大胆(の2タイプ)」「退屈。夫が戻る迄そこから脱し」「私は悪い女かも。でも読む迄はしない」「彼を放そう。手紙も回収し」「私より賢く、自分勝手でもない」「再び狩猟本能が」「夫への信頼堅い··不誠実なら読んでた筈」
 これら三本の無声映画の作者は、ロイス·ウェバーという事を覚えた。かなり前、短縮版『毒流』には感心も作者の名を覚えようとまではしなかった。
mingo

mingoの感想・評価

3.8
高校時代に裏原に通っていた世代なので欲しい服が一生手に入らない…と絶望したのを思い出したがそんな私のあまっちゃろさを吹き飛ばす負の螺旋。女性が陰で泣く演出に死ぬほど弱いため観るのがしんどすぎた…それでも名画は名画、素晴らしい。裕福でなくて良いから快適な家と愛すべき家庭があれば良い、それだけなのに「貧困」という害虫が蕾の中に侵入し開くことのなかった一輪の花。船がいくら沈没しようが河が流れを止めないのと同じように人は生まれながらにして決められている。抗えない宿命。

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