『燃えよドラゴン』の元ネタとして有名だしその文脈で語られがちだが、フィルム・ノワールの始祖としての評価が高く、いまではレシピのような作品。故にファム・ファタールと出会った男がその女のために堕ちていく……みたいなよくある進め方をするも話は複雑でテンプレでありながら一切古臭くない。
当時、オーソン・ウェルズと結婚していたリタ・ヘイワースは「この女のためならすべてを捨てても良い“感”」を見事に体現しており、彼女のための映画だといっても過言ではない。ナレーションに名言が多く、カポーティがよく引用していたらしいが、「僕という人間はつくづく愚かだと思う。それは疑いようのない事実だ。どうしてあんなことをしたのか自分でもわからない。分別のある男のやることじゃない。彼女を一目見てからぼくは正気を無くしていたのだ」という出だしからすでに傑作の香りが。
クレーンをつかい俯瞰から地上に降りてくるという得意なショットも散見されるが、どちらかというとモンタージュ理論に凝っており、めまぐるしいイメージの断片が全編にわたって繰り広げられる。もちろんクライマックスのロケーションの見事さ、クレイジーハウスでのやりとりなど、見所を説明しだすと枚挙にいとまがない。
ちなみにこの作品。2時間半あったものが再編集により1時間半にされ、酷評され、まったく当たらなかったという、ウェルズにつきまとういつものエピソード付き。製作にはなんとウィリアム・キャッスルがかかわっている