垂直落下式サミング

ドラえもん のび太と鉄人兵団の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

4.4
宇宙からやって来たロボット文明の侵略を描いたドラえもん劇場版。拾った巨大ロボットをザンダクロスと名付けてひとしきり遊んだあと、兵器が内蔵されていることに気づいて…。無人の北極に転送されてきた侵略兵器の部品を、横からかっぱらうのび太のファインプレー!
ロボットたちは侵略兵器。じゃあ、相手の頭脳をいじくって味方にしちゃおう。みたことの無い回路がいっぱい。じゃあ見たことあるのに直しちゃえば?ってなもんで、さすがの万能ドラえもん。
SFとしてはいいんだが、相手側の理論を問答無用で否定しちゃうのは邪悪。そして、相手側のアイデンティティそのものを書き換える歴史修正。それで解決していいのかな?と疑問を投げ掛ける。今は子供向けが失ってしまった社会派な部分。
ジャイアンの肝っ玉は、劇場版で輝く。ロボットの大軍が攻めてくるのを知ってみんなが慌てふためいているところに、「そんなにうろたえるなっ!兵団が来るのはわかってたことじゃんか!」という見も蓋もないことをいってのけるガキ大将。ジャイアンって、物事の本質をわかってんだな。肝は座っているけれど、対策は思い浮かばないのがかわいい。
男の子たちは、戦いのこととなると事態の解決ばっかり考えているけれど、しずかちゃんとリルルは交流のなかで、会話を繰り返す。このふたりの女の子が敵同士から関係を築いていく様子が丹念に積み上げられていくのが、シリーズ屈指の名作と呼ばれるゆえん。
毎度のことながら、平然と家宅侵入されるしずかちゃんの身代わりにアニメの性的搾取の対象となるのは、眼に光がない少女ロボットのリルル。
最初は極寒の北極なのにレオタードっていうバブルスタイルで、空を飛んでいくのを下からのアングルで見上げてパンツみえるだけかと思ったら割りと頻繁にパンチラする。ロボ救急箱で手当てするシーンは乳首も描写。小さくされた少女が鳥かごに閉じ込められるところは、Fの癖でしょうか。銃を持ったのび太に「撃て」と命じる自殺願望を持つまでになるとは、ちょっと尊厳破壊が過ぎる。
しずちゃんの「ときどき理屈にあわないことをするのが人間ってものなのよ。」という台詞は、漫画の名言ミーム化しているけれど、実は結構エグいんだよな。これを言いつつ、信用させてリルルに睡眠薬を飲ませるのが彼女の目的であるから、あくまでしずかちゃんも鉄人兵団打倒計画の一部として、地球側の立場で打算的に動いているのである。
あなたを助けたのも理屈じゃないけれど、かといって個人の感情のために人類を滅ぼせないって立場もわかってね、その上で貴女と私は個人的にお友だちにもなれると思うのよって、ぜんぜん理屈にあわない身勝手なことだとしても、非合理を感情論で理に落とそうってのがニンゲンってものなんだって、二重三重にネジれた理屈。コンピューターなリルルちゃんに、この複雑怪奇さは理解が遠すぎるんだべ。子供向けでこれを出来ちゃうのが、受け取り手の教養を信じているなあと。
お座敷から異世界へ。相手には大義があり、こちらにも意思がある。それを汲み取ったうえでリベラルアーツな知性で争いを越えていく。藤子・F・不二雄哲学が凝縮されたドラえもん映画の秀作。