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ソフィアの夜明けのKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

ソフィアの夜明け(2009年製作の映画)
3.0
[ブルガリア、20年越しの夜明けの始まり] 60点

日本で手に入る数少ないブルガリア映画の一つ。元々農業国だったブルガリアはソ連の支援によって多少の工業化に成功するも、その崩壊によって市場を失い、資本主義の参入、雇用率と生活水準の低下、犯罪の横行と東欧諸国の典型的な90年代を迎える羽目になる。それは本作品でも意識される。富裕層向けの飲食店は国産のビールなど置かずにメニューも英語、昔馴染みの土地は開発のために更地になり、それでも父親は家の中でふんぞり返り、アイデンティティは踏み躙られ、どこに行っても息が詰まる。本作品の主人公はある兄弟である。強権的な父親への反抗と男らしさへの憧れを求めてギャング団に加入し、排他的思想から外国人を襲う羽目になる高校生の弟ゲオルギと、美術大学を卒業しても仕事がなく、海外での生活にも創作活動にも行き詰まって恋人に当たり散らすくらいしか出来ない薬物依存治療中の兄イツォの二人だ。彼らの人生は90年代ブルガリアを集約したような悲しみとやるせなさに満ちている。

弟のギャングがあるトルコ人一家を襲撃し、兄がその場に居合わせたことで、イツォは助けた家族の娘ウシェルと知り合い、兄弟も久方ぶりの再会を果たすんだが、ここらへんから本作品の寓話的な側面の粗さが目に余るようになってくる。ウシェルの家族はトルコ人とは云え観光客で、彼女たちに流入する移民、或いは西側へと出稼ぎに行ったブルガリア人たちを代表させるには厳しいものがあり、同様に兄弟の現在は現代の若者を象徴するような背景がありながら、映画の中で語られるエピソードや感情の動きは弱すぎるように思える。また、ネオナチが右翼政治家に使われてるみたいな台詞から、それが具現化されたようなエピソードが挿入されるんだが、これは本当に余計だし、とっちらかった映画の総括として象徴的だ。

それでも、本作品の取って付けたようなラストは、それを"夜明け"と信じたくなるような希望に満ちている。このラストを撮りたかったから兄弟という設定にしたに違いない。本作品はEUに加盟した2年後に公開されており、これをチャンスに全ての意識を変えていきたいという決意のようなものが見える。

ウシェルを演じたサーデット・アクソイが信じられないくらい綺麗なので、カプランオールの初期作も観てみよう。
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