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バイオハザードV リトリビューションのnetfilmsのレビュー・感想・評価

3.6
 ロサンゼルス沖に停泊する安息の地「アルカディア号」内、アルバート・ウェスカーとの壮絶な死闘を終え、クレア(アリ・ラーター)やクリス(ウェントワース・ミラー)らと生存者を救出してタンカーの甲板へ出てきたアリス・アバーナシー(ミラ・ジョヴォヴィッチ)に対し、上空からアンブレラ社の戦闘部隊が突如襲いかかる。アヴァンタイトルに集約された甲板上でのバトル。頭上のヘリからワイアーで登場するのは、かつてアリスと行動を共にし、深夜のラクーンシティから無事生還した美しき元S.T.A.R.S.隊員ジル・バレンタイン(シエンナ・ギロリー)だった。ラクーンシティ脱出以降、アリスとは別行動だったが、アンブレラ社に囚われて拷問された挙げ句、胸にクモ型デバイスを取り付けられてレッド・クイーンに洗脳され、一転してアリスに牙を剥く。前作『バイオハザードIV アフターライフ』でウェスカーに首に血清を打たれた後、身体からT-ウイルスが抜けたアリスにジルが襲い掛かる。二丁ライフルで必死に抵抗を試みるが、甲板にいた仲間たちは次々に殺され、圧倒的な戦力差を前にそれでも一人戦うアリスは、多大な犠牲者を生んだ壮絶な銃撃戦の末に戦闘機の墜落に巻き込まれ、海へ転落する。体が深く沈みゆく中、アリスの意識は遠のいていく。

 ミラ・ジョヴォヴィッチ主演で快進撃を飛ばすソニー・ピクチャーズのドル箱コンテンツ『バイオハザード』シリーズ第5弾。エピソード2,3で安易に強くなり過ぎたヒロインを踏まえ、前作では遂にアリスの超人設定が一度フラットに。今作では最大のライバルだったジル・バレンタインと初めて力関係が逆転し、ひたすら劣勢に立たされるヒロインの姿が印象深い。海へ転落し、徐々に遠のいてゆく意識がもう一度吹き返した時、彼女の傍らには耳の不自由な娘ベッキー(アリアーナ・エンジニア)と『バイオハザードIII』で死んだはずのカルロス・オリヴェイラ(オデッド・フェール)がトッドの名前でアリスを優しく見守っている。今作でアリスが見た世界は現実世界と仮想現実とを行ったり来たりし、さながら『マトリックス』シリーズのような肉体と精神が乖離した今を生きる。アリス自身が数十体ものクローンを意のままに操った『バイオハザードIV アフターライフ』の導入部分の快進撃の一方で、アリスはこの仮想現実とリアリティの危うい境界線の上を歩く。彼女の見る仮想現実にはジョン・カーペンターの『ハロウィン』そっくりなショットもある。今シリーズは一貫してかつてのハリウッド・ヒット作の無邪気なオマージュを隠そうとしない。

 それと共に今作の一番の醍醐味は、シリーズで印象深い活躍を残したかつての人気キャラクターの再登場に他ならない。かつてアリスを支えたメンバーが一転して彼女の敵となり、彼女の敵だったメンバーが仲間になるという逆転の発想はまさに、現実空間と仮想空間との対比をより一層鮮明にする。ポール・W・S・アンダーソンはニューヨークのタイムズスクエア、東京・新宿、モスクワの赤の広場という3つの時代・場所を代表する固有名を、カムチャツカにある旧ソ連軍の艦隊だった場所にある地下の巨大施設の中にアトラクションとして設ける。3D地図ではベルリン・エリアもあったようだが、NYシークエンス、モスクワ・シークエンスと分岐したシークエンス部分は図らずも今作のゲーム的快楽を明らかにする。現実空間のように見えるのは仮想空間だが、敵の攻撃を受けたアリスの肉体からは真っ赤な血が滲む。簡単に逃げられない堅牢な巨大施設の中にヒロインを迷い込ませる設定は監督の十八番であり、『バイオハザード』の地下研究所「ハイブ」や『バイオハザードIV アフターライフ』のシタデル研究所と同じ構造を繰り返すが、唯一違うのは、アリスの置かれた状況が2Dでも3Dでもなく、まさに4Dの現実が襲いかかる点にある。裸に白いタオル1枚のミラ・ジョヴォヴィッチが巻き込まれた閉鎖空間の白昼夢のような白さ、中盤の吊り下げられたクローンたちのビジュアルなどSFとして決して悪くない場面もあるが、擬似母娘の繋がりをミッションよりも重んじ、巨大リッカーの繭中に閉じ込められたベッキーを救う様子はやはりジェームズ・キャメロンの『エイリアン2』の影響が色濃い。
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