垂直落下式サミング

少林拳対五遁忍術の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

少林拳対五遁忍術(1982年製作の映画)
3.7
『片腕必殺剣』のチャン・チェ監督が、中国武術の達人たちと日本からやってきた忍者部隊の戦いを華々しいアクションで描いた武侠活劇。
日本の忍者勢力から挑戦状を叩き付けられた中国の武林総盟。精鋭を選出し他流試合に望むのだが、陰陽五大行“火” ”水” “木” “土” “金”の性質を司る摩訶不思議な忍術を極めた忍者軍団の前に、仲間たちは次々と倒されてゆく。前半の忍術合戦は様々なアイデアが盛り込まれていて、中国人もビックリなトンデモ忍術のつるべ落ち。特に土遁があからさまに卑怯なのだ。常人の三倍の脚力を持つ鍛え上げられた大陸武術の達人と言えど、囲んで棒で叩くかの如きマッポーめいた集団リンチカラテに苦戦は必至。アイサツを交わさずに突如として死角から襲いかかる卑劣極まりないアンブッシュ。実際スゴイ・シツレイにあたる。行われるのは初見殺しめいた無慈悲な戮殺。辺り一面にツキジめいた光景が広がったのである。あぁ…ブッダよ。寝ているのですか…。
生き残った主人公は仲間たちの仇を討つため、忍術の開祖とされる中国忍者老子に師事し自らも忍術を学ぶこととなる。ニンジャ、殺すべし!といった具合にかなり胡散臭い内容なのだが、カルトカンフー映画の巨匠チャン・チェ監督の溢れるサービス精神によって本作はアツい男シネマに仕上がっている。
戦いの最中に腹を裂かれた功夫使いが自らの腸を踏んで転けてしまう場面や、具体的にどの攻撃に対応するための訓練なのか分からない目隠しの修行など、ユルい武侠活劇ならではの見所も多い。恋愛要素も盛り込まれているものの敵同士にもかかわらず惹かれ合う主人公と女忍者の愛憎劇は、解決も進展もせずに最後までギクシャクし続ける。くノ一が裸網タイツとなって主人公を誘惑するのだが、そこは野暮天な主人公。猥褻が一切ない。整合性?恋愛?知らん、そんなものは俺の管轄外だと言わんばかりの潔さ!これぞチャン・チェ節。
主人公と同門の兄弟弟子達が、仲間の仇を討つため武林の誇りをかけて忍者軍団に因縁の対決を挑む場面は『五毒拳』を観ていればよりグッとくるものを感じられるし、ラストのボス戦では忍者首領が四人の武術家を一度に相手取る4VS1の大立ち回りの剣劇を演じる。最後の刺客として主人公と相見える忍者軍団の大首領役は、リアルアウトレイジとの噂が耐えない香港の武闘派俳優チャーリー・チャン。そのカラテのワザマエは香港映画界指折りであり、俳優業の傍ら参加した武術大会で現役プロボクサーをKOしたという刃牙めいた世界観の逸話を持つ男なのだ。特に序盤の槍術合戦では彼の成熟した体技が冴え渡り、アクション演出としても動的な功夫と静的な殺陣の対比が上手く表現されていて、四人に囲まれながらも四方からの攻撃を受け流す薙刀捌きが格好よく撮しとられている。38歳の動きとは思えない機敏な演舞に加え、上半身裸となり背中や胸部に彫られた本物の刺青も披露。生来のマッドな風貌から醸し出されるヤクザ的とも言える黒社會めいたアトモスフィアによって、悪役キャラもなかなかに板に付いている。ダーティニンジャ・チャーリー・チャン=サンのベストバウトだ。
功夫と忍術。二大オリエンタルミステリーの激突ということで見逃せない作品なのである。