ヨーク

アダプション/ある母と娘の記録のヨークのレビュー・感想・評価

4.0
メーサーロシュ・マールタの2本目です。『ふたりの女、ひとつの宿命』からのハシゴで今回の特集はこれで最後。
何となくメーサーロシュ・マールタの英語版ウィキペディアのページを見てみたらすげぇ多作の人でびっくりしたんですが、ざっと見た感じ30作近くは撮ってるんじゃないだろうか。そんだけ多作ならたった2本ぽっち観ただけでは傾向とかは全く語れないと思うが、とりあえず今作も面白かったですよ。他の作品は全く知らないがちょうどハシゴした『ふたりの女、ひとつの宿命』と同じモチーフの作品であった。まぁ、ずばり女にとっての出産ですね。
お話は主人公は40歳を過ぎたばかりくらいの未亡人の女性で映画は彼女が健康診断を受けているところから始まる。主人公が健康診断を受けた理由は自分が高齢出産に耐えられるかどうかを調べるためだった。実は彼女は妻子ある男と不倫関係にあり、シングルマザーでもいいから子供が欲しいと願っているのだった。だが男の方は関係がややこしくなるだけだからと乗り気ではない、そんな折主人公は寄宿学校に通っている10代後半くらいの若い娘と知り合って年の離れた友人関係になっていく…というもの。
ちなみにそのもう一人の主人公と言ってもいい寄宿学校の女の子は親との関係が上手くいっていなくて今付き合っている彼氏と結婚しようとしているのだが周囲の理解を得られないという悩みを抱えている。ま、一言でいえば結婚と出産にまつわるお話で観たばかりの『ふたりの女、ひとつの宿命』とモロ被りな題材なわけである。しかしテーマは被っていたがそのアプローチの仕方は全然違っていた。『ふたりの女』の方が二次大戦下のユダヤ人排斥も絡めたメロドラマだったのに対して本作は上記したように40歳オーバーのおばさんと若い娘っ子の物語なのである。年の差シスターフッドものと言ってもいいかもしれない。
この組み合わせはあるようであんまりないからそこが面白かったんですよね。おっさんと少女なら多くの映画好きがパッと思いつくであろう『レオン』を筆頭に色々あるじゃないですか。おっさんと少年もイーストウッドの『パーフェクト・ワールド』のように多くの名作がある。主に血のつながりはないけどおっさんの方が少年に男としての生き様を見せて少年は大人の階段を一歩登るのだった…みたいな話が多いと思う。んでおばさんと少年も多くはないけどあることはある。『スパイダーマン』なんかはヒーローものじゃなくて少年のドラマだと思えばメイおばさんの存在は欠かせないだろう。『セントラル・ステーション』なんかはドストレートにおばさんと少年の物語である。
でもおばさんと少女の物語っていうのはあんまりないんですよね。パッと思いついたのはやや変化球で少女とは言えないが『プラダを着た悪魔』とかだろうか。なぜか知らんがおばさんと少女は対立することはあっても仲良くなることはあんまりないような気がするのである。河合隼雄によれば母と娘の関係というのはあらゆる人間関係の中でももっとも強い絆になりうるというようなことを言っていたと思うのだがあんまりそういった作り話はないんじゃないだろうか。現実でよくあることだから作り話は必要ないんだろうか。
まぁその辺はよく分かりませんが、とにかく本作はあまりないタイプのおばさんと少女の物語なわけですよ。これがまた良かった。他の人も感想で書いていた気がするが疑似親子的な感じではなくて年の離れた友人といった感じに描かれるのが最高で、二人はしばらくの間同居したりもするのだが片方が風呂上りにバスタオル1枚でうろついてるときのシーンの芝居とかがすごく友達の家に遊びに来てる感があっていいんですよ。また全裸の状態から部屋着に着替えるときの仕草とかもいい。あ、そうだな、仕草のいい映画だったな。
ソファに座ってるときの姿勢とか歩き方とかタバコを吸うときの細かい指の動きとかが良い意味であんまり女性らしくないというか、男を意識しているときの女性の雰囲気ではないんですよね。知らんけど本作の主役二人の間の空気感は女子高(無論男が理想化したものではなくてリアルな)とかの休憩時間とかに近いのではないだろうか。いや女子高とか一度も行ったことないから今かなり適当なこと書いたが、しかしでもおばさんと少女がリラックスしてる姿が印象的な映画だったんですよね。
しかも昨今の都合のいいフェミニズム風な映画とは違ってガールズパワーで物事が好転とかはしないのもいい。別に不幸になる女を観たいわけではないが女二人で面白おかしくイージーに生きていけるわけもないし、少女の方が願ってる結婚も決してその先にバラ色の未来があるわけではないというところで映画は終わるのだが、でもささやかな希望というのがこの感想文中で繰り返し書いているおばさんと少女が友達になれるっていうことなんだと思うんですよね。
男の罪を告発すような物語よりもそっちの方がより現実に良い影響を与えるのではないだろうかと思う。40歳を過ぎて子を望む女やネグレクトされて育った少女がお互いに歩み寄って男性性の不在の中で母と娘という型にも嵌らずに関係を築けるというのは凄いことですよ。そして二人の女が持つ男への思いというのものの対比も面白い。ここはちょっと書くとネタバレになるのでやめておくが、おばさんの方の主人公の選択が凄く良かったな。まぁ『アダプション/ある母と娘の記録』というタイトルがそのまんまなので大体分かってしまうところではあるのだが…。
そこら辺はあれですねおばさんの方の主人公も少女の方の主人公も男とキスしたりハグしたりするときに女性側の顔は映すんだけど男の方の顔、少なくとも表情が読めるような顔はほとんど映していなかったと思うので意図的に男の不在というのは匂わせていたと思う。それがちゃんとオチにも効いてきているわけですね。
面白い映画だったな。個人的に好きなシーンはおばさん主人公が自宅で日曜大工的な作業をしてるシーンでした。女性が自然にそういうことをしているシーンってあんまりないので面白かった。流石に金熊獲ったというだけはありメーサーロシュ・マールタ入門にはぴったりなのではないだろうか。おすすめです。
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