ヨーク

反撃/真夜中の処刑ゲームのヨークのレビュー・感想・評価

反撃/真夜中の処刑ゲーム(1983年製作の映画)
3.8
未体験ゾーンの映画たち2024の8本目です。
本作『真夜中の処刑ゲーム』は1983年の映画なのだが日本では劇場未公開でありながら日曜洋画劇場で一度だけテレビ放送されたことがあり、その際にかの淀川長治が絶賛したということもあり一部の映画マニアには有名であり、また日本での劇場公開が待望されていた作品なのだそうだ。ちなみにそこら辺のことは未体験ゾーンの映画たちの公式サイトの作品紹介の欄にしっかりと書かれていたのだが、俺は知らずに本編を観ました。さらに言うと映画を観てすぐのTwitterの感想では「ホームアローンの元ネタなんじゃないか?」と呟いていたが、そこの部分もしっかりと紹介文に書かれていましたよ。まぁ”大人のホームアローン開戦”という語句があるだけなので実際に『ホームアローン』の主要スタッフが本作を参考したかどうかはよく分からないが。
でもかなり面白かったですね。今のところ今年の未体験ゾーンの映画たちの中では『アリバイドットコム2』に次ぐくらいに面白くて普通に一般上映してもそこそこ客が入るんじゃないかなと思うくらいではありましたよ。
お話は、上で『ホームアローン』みたいと書いたようにいわゆる籠城戦を描いた映画なのだが、この映画が面白かったのはその籠城戦というシチュエーションにまで持っていくお話の筋運びが面白かった。まず映画の冒頭では舞台となる街が警察のストライキによって無法状態となっていることが語られ、その状況で自称自警団の今ならトランプに投票してそうな学もなさそうで女にもモテなさそうなどうしようもない男共が風紀の乱れを正すためと称してゲイバーを襲撃する。そこで一線を越えた彼らは店員と客を虐殺するのだが、一人の客が脱走に成功。その客は逃げた先のアパートの一室に助けを求め、そこにいた男女数人はかれを匿うことに決めた。斯くして暴徒と化した同性愛者を処刑しようとする自称自警団と、それを匿う者たちとの文字通りに命を懸けた戦いが始まる…という感じのお話です。
映画の紹介文にもあり、実際に観た俺の第一声がそうであったように『ホームアローン』ぽいっていうのは分かっていただけるのではないだろうか。要は逃げたゲイの人を匿っているアパートの人たちがトラップを駆使して追跡者たちやっつけていくわけですな。その辺の面白さと緊張感はよかったですよ。予算は全然ない映画だと思うけど、こうすれば面白くトラップが炸裂するだろうという見せ方が凝っているので観ていて飽きない。
お話のテンポもよくてダレるところがほとんどなく進行していくのも良かったですね。ゲイの人が逃げてきたときに彼を匿うか追い出すかで揉めるという件は当然のようにあるのだが、そこも無駄に悩んで尺を消費したりはせずに進行するし、いざ戦闘が始まってからも勿体ぶらずに敵味方双方共に人がぽんぽん死ぬのでダレるようなところはほとんどなかったですね。
あと個人的に面白かったのは、本作の悪役は自称自警団の排他主義者たちなのだが、それと戦う主人公側も警察がストライキ中ということがあって自力で対抗しないといけないからこっちはこっちで即席の自警団的な集団になるわけなんですよね。つまり、図式的には自警団VS自警団となるわけです。そこからは国の治安維持機関である警察がマヒしたときに自分自身を守ることができるのは何なのかっていうことを考えさせられてしまうよな、って思うよ。もちろん片方は自警団(笑)ではあるのだが警察機構がマヒするとそういう奴らが跋扈するようになるというのもさもありなんではある。
そういう極限的な状況での個としての生き残りを賭けた戦いというのが本作の全編に通底されていて良かったですよ。建物内のギミックを利かせた戦闘シーンも面白いし、観客しか知り得ない状況を提示しながら登場人物の行動にハラハラさせる演出も見事。そして何となく予想はできるものの最後の大オチも単なるB級映画に留まらない余韻を残してくれるので、淀川長治が称賛するのもよく分かるというくらいには面白い映画でしたよ。
これ劇場で観られる機会は少ないと思うので行ける人は是非って感じですね。面白かった。
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