垂直落下式サミング

北国の帝王の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

北国の帝王(1973年製作の映画)
5.0
リー・マーヴィンが絶対列車にタダ乗りするホーボーの帝王、アーネスト・ボーグナインが絶対にタダ乗りを許さない鬼車掌となって、二者が対決する野蛮なスターVSスターのアウトローシネマの傑作。
名匠ロバート・アルドリッチ監督の手によって、ハリウッドが誇る二大怪獣が今ここに激突するのだ!もう見た目がスゴくて、主演の二人とも魔除けの民芸品みたいな人相。二者が対立する様子は、「映画とは闘争であり、役者とは顔面だ!」と主張しているかのようである。
ラストの貨車の上でのタイマンは立場や建前を超越した男同士の名誉の決闘だ。彼らの闘争心を奮い立たせるのは理屈のさらに上、男としての誇りである。一方、キース・キャラダイン演じるバカ役は若者がなってはいけない愚者の姿。頭が悪いのはどうにでもなるが品性が下劣なのは救いようがない。他者に敬意をはらう心を欠いた人間に、美しい生き方など出来ないのである。
帝王は名実ともにナンバーワンでなければならない。気高くいきること、それは他者より抜きん出たものに課せられる義務である。自身の名声を証明するために、ナンバーワンは皆に誇り高い男として振る舞うのである。誰よりも強く。誰よりも賢く。そして他の誰よりも自由でいるために。これが、人間の逃れられない憧れのかたちであり、覚悟をもって「ここではないどこか」へ夢を求めたものたちの矜持なのだ。
北国の帝王は、図太い信念と揺るぎない美学がど真ん中に貫かれ、作品の中で提示される生き方は観るものの価値観を突き動かす。私は普段から、それがどんな名作だろうと映画なんてものは時間を無駄にする娯楽だと思っているが、この映画を観てアーネスト・ボーグナインに戦いを挑めるような強い男に、リー・マーヴィンに列車から突き落とされないような義の人になりたいと本気で思わされた。映画を一本観終えることで世界の見方が変わるとはこの事なのか。
人間とは戦う生き物。戦わずには生きられない。誇りを捨てるな。卑劣になるな。さもなくば七面鳥でぶん殴るぞ!さあ、勝つ気のある奴だけ乗ってこい!