矢吹

たぶん悪魔がの矢吹のレビュー・感想・評価

たぶん悪魔が(1977年製作の映画)
4.3
この世のアレそれの
糸を引いてるやつはだれだ?
たぶん、悪魔が。
いや、俺らだろ。と思うけど
宗教の非論理性を説けば、悪魔の論理性を導けるだろうか。全ての悪は悪魔の仕業だというキリスト教チックな考え方。人がしっかりと悪魔に取り憑かれうるという自覚を持って人として強く生きるべしという点と、大体は悪魔のせいだから、多少欲望のままに生きてしまってもいいという点と、どちらも取れるかな。となると、やさしくて、残酷で、神秘的で、最高のタイトル。
多分悪魔が。
Le diable probablement

バスのボタン、ドアノブ、机の上、カバンの中、手元のアップのショットは地の文って感覚のリズムで、また、見慣れたつもりのものを、見たことのないものに見せかける。かのようで、
裸足とか、まあ足元のカットもすげえ多かった感じがする。特に人間の肩から下のカットが多い。こちらに関しては、モブの徹底的な個性の剥奪、無表情どころか、無顔面なのが、この物語の無機質さに拍車をかける。

信念なき行動こそを批判する立場の彼は、またその周囲にいる彼らは、動く前に1秒間の静止、思考、判断をするリズムで行動する感じなんだけど、これが独特な暗さになりつつ、そもそも普通に笑顔を見せるやつがゼロ。出てくるキャラはキャラで無表情。天気もずっと悪い。
話は、恋愛と惰性と怠惰に対する若者の、若さという閃光の、力のぶつけどころである。

世界を包む不幸に対する、若者たちが。
あと誰も走らない。
凶弾に倒れたのは、これは、自殺か他殺か。
お賽銭奪っちゃダメだろうが。

政治嫌いの若者たちのリーダー2人。

なんでだろう、大正ロマン感あるのよ、和洋折衷とかじゃなくて、そもそもの、大正ロマンのイメージから、正確なものではない可能性があるのだけど、とにかくめっちゃかっこいい。
話は全然70年代なんだけど、つまり、便利さよりも速度よりも、美学を優先することができた時代。今ではない昔への、懐古と憧憬であるってことなんだよ。言ってしまえば。
美が、美学が、あるのです。

怠惰を通り越せば官能にかわる。

なんでもできゃう
超モテる男と、この好きな女をモノにできない男のもどかしさ。
死ぬと判っていても、こんなに残酷な結末であり、こんなに美しいとは思ってなかったや。
そしてやはり、死んで仕舞えば同じだという一つのルサンチマンも関わってきているようでタチが悪いんだけど。
この瞬間崇高な考えが抱ける。
彼の崇高な考えが、あまりに呆気なく終わってしまうのなら、そしてやはり死は敗北なのだ
そしてそれを実行する男は、鮮やかに逃げる、
ここで圧倒するのは、やはり走ることのできるやつ。
速度がみんなと違うのだ。
科学に近い、たぶん、悪魔。
結局、思考ノータイムの本当の欲望に負けた。
でも、この映画の、あの、美学を思えば、速いものなど、にがしておけばいいのだ。
哀れに、逃走でも徒競走でもしておきなさい。
俺は最後の美学を信じますから。

そして、
地球を好き勝手する人間の、世界の悲鳴が君に聞こえるか。
という。これは未来への問題提起の話であって、つまり今の問題なのである。
矢吹

矢吹