カラン

マイ・ライフ、マイ・ファミリーのカランのレビュー・感想・評価

4.5
父親から虐待を受けて育った兄妹が、突然に認知症の父親の介護に奔走する。兄(フィリップ・シーモア・ホフマン)は大学で演劇を教え、妹(ローラ・リニー)は派遣の仕事をしながら演劇を作っている。

トラジコメディ。監督のタマラ・ジェンキンスは、星の数ほどいる希望者たちのなかで、メジャーデビューを勝ち取ったのだから、言うほどではないかもしれないが、ストーリーに苦労が滲んでいる気がした。本作は多数の賞を獲って、評論家も2007年の年間ベストに複数の誌面で挙げたようである。800万ドルの予算でチケット売上は1000万ドルほどであったようだ。玄人うけはしたが、広く人口に膾炙することはなかった。まあ、介護というテーマが渋いか。笑いも辛口だし。私も嫁に一緒に観ようと誘ったのだが、拒否られた。(^^) 皆さんも騙されたと思って観たらいいかも。

全体の3分の2くらいまでは笑いが撒かれているが、最後3分の1は笑いが乾き気味である。ただ、胸をちゃんと2回温めてくれてからエンドロールに向かうわけで、勢いだけで書いてない。何というか、脚本家が抜かりがないように目配せしながら一生懸命作った感触もするし、といって脚本が目立ちすぎないように実力派の2人の演者がしっかり魅せるてくれる。ローラ・リニーとフィリップ・シーモア・ホフマンの2人を配置するのを譲らなかったのが最大の功績なのかもしれない。認知症のお父さんは出番はたくさんあるのだけれど、兄妹に比して弱くて、彼らと一緒だとただ演技してるだけ。あるいは本が弱いのか。

風景のロングショットがとても素晴らしい。人気のないアリゾナの家並みや青空、ニューヨークの川、等々は抜群のエスタブリッシングショットである。子供のように遊ぶ大量の老人たちをスロモーションで登場させるオープニングのタイトルバックはかなり良い。いきなり引き込まれた。初めの舞台はアリゾナの設定だが、そこからニューヨークに移ってくることになるのが、寂しく感じるほど。

犬の復活は『ハリーとトント』(1974)を想起させ、黄金の陽をいっぱいに取り込んだ画面も、水際のショットである点でも似ている。まずまず感動的であるが、もうちょっと工夫があってもよかったか。『ハリーとトント』のラストにはだいぶ及ばない。

中年の妹の孤独や性愛の描き方はとても手が込んでいる。男のライターだとなかなか書けないかも。

何回も観れるタイプの映画。



レンタルDVDは5.1chマルチサラウンド。2000年代の映画の音質はどれも大したことはないのだが、これはあまりサウンド面の探求はされていないし、必要もなかったか。普通。他方で、画質はとても良い。
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