垂直落下式サミング

ドラえもん のび太の大魔境の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

3.7
拾った白い野良犬をペコと名付けたのび太は、ジャイアンの発案でアフリカの秘境「ヘビースモーカーズフォレスト」に冒険に行くことになった。猛獣に襲われたりしつつ辿り着いた犬の王国「バウワンコ王国」で、王位継承の御家騒動に巻き込まれていく。1982年の初期劇場版ドラえもん。
冒頭で、ジャイアンが「地球上に未踏域はなくなって、若い世代には冒険する余地が残されていない」ってのを嘆くけど、すごく近代を象徴していると思う。ドラえもんの連載がはじまったのは、日本の高度経済成長が終わりつつあった時代。現実に夢や希望がなくなっていったころの子供たちに、深い共感を与えたセリフなのではないか。
今作で最もスポットが当てられているキャラクターは、まさかのジャイアン。前半の戦犯っぷりでヘイト溜めから、後半の男気発揮が見物。終盤では、ペコの為に命を懸けて行動する。
探検隊の隊長を称するが、今作では序盤から中盤にかけて悪い方向に我の強さを発揮。どころか、やることなすこと、事態を悪化させるばかり。自身の軽はずみな行動で何度も仲間を危険な目に遭わせてしまったことで思い悩み、拗ねた態度を取って孤立してしまう。
これについて、本人も内心で深く反省し、中盤でペコと二人きりになった際は「俺はどうすればいいんだ?」と涙ながらに思いを吐露。
粗の多い作品ではあるけれど、最後おもむろに立ち上がり死地に赴く彼の背中に、トロンボーンだかチューバだかの重低音でオーケストラサウンドなジャイアンのテーマが重なるとき、いいものをみてるなって感覚がした。
物語的には、これまでのマイナスを精算したに過ぎないのだが、視聴者側としては、アドベンチャーと感動の見せ場を作ってくれたありがたい存在。
「タケコプター」や「桃太郎印のきびだんご」など、よく使う有用な秘密道具をジャイアンがぜんぶ置いてったおかげで、あまり使わないマイナー道具が陽の目をみているから、けっこう楽しい。
今の時代にみると、ちょっと危ういところはめっちゃある。アフリカの内陸を文明から取り残された土地だとするのはともかくとして、「暗黒大陸」呼ばわりはいけない。その由来は、ワクワクドキドキ大冒険みたいな無邪気なもんじゃなくて、奴隷貿易に端を発するものですから、まさに暗黒の歴史の一部なわけで…。
これからは、言い訳とか通じないのでやめときましょう。リメイク版とか大丈夫なのかな?