Foufou

ハハハのFoufouのレビュー・感想・評価

ハハハ(2010年製作の映画)
4.0
舞台は統営(トンヨン)市。釜山からさらに南へ行った島嶼地なんですね。風景が、同緯度にある対馬や五島列島に酷似します。李舜臣が豊臣軍を迎撃した要塞都市であるようで、朝鮮民族の英雄筆頭たる李舜臣に因んだ史跡が方々に散らばるよう。本作では、李舜臣自身がお出ましになります。

かようにホン・サンスという人は、ロケ地にこだわる人です。ところが風景に淫するということがまったくない人で、敢えて貧しく撮るようなところがある。それと、坂道の多い土地がお好きなようで、だから、ロケ地が異なるのにかすかな既視感すらある。本作では、晴れ間は一切なし。雨か、曇りか、徹底してました。

韓国国内の映画興行成績歴代一位が、たしか李舜臣にまつわる史劇ではなかったか(もっとも、こういうのは統計の取り方によりますね)。なにぶんナショナリズムの象徴のような存在ですから、この映画でクスクス笑える人は、韓国ではマイノリティ、なのかな? もちろん、英雄を茶化したり皮肉ったりする演出は皆無。もっとおおらか。こうしたホン・サンスの立ち位置こそ、リベラルっていうんでしょうね。

今泉力哉監督いわく、ご自身は映画監督になってからぽつぽつロメールを見始めたので、直接の影響関係はない、と。とすると、ロメール→ホン・サンス→今泉力哉という図式が成り立つのか。ホン・サンスもまた、男女の切った張ったを延々撮り続けている。

よくもまぁ、飽きもせず、と傍目には思わぬこともないですが。ホラーも喜劇も恋愛もアクションもなんでもイケる、みたいなクリエイター、なかなかいませんね。いてもよさそうですけど。なんだろう、イメージとか、信頼の問題なんでしょうか。縄張り意識みたいなものが、そのうち出来上がってくるのか。まぁ、ホン・サンスにマーベルが声をかけるなんて、あり得ないでしょうけど。ただ、ホン・サンスの映画を見て、あ、ホン・サンスだ、と思うことは、なんだか安心以上のものがあります。

高いワインなんて買えませんからね。そこそこのワインと生ハムなんか用意しておいて、子どもたちの寝静まったあとにホン・サンスを見る。今はこれ以上の幸せは望めないかもしれない。
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