垂直落下式サミング

ファスタープッシーキャット キル!キル!の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

3.9
巨乳映画の巨匠ラス・メイヤー監督の代表作。
ヴァーラ、ロージー、ビリーの三人のゴーゴーダンサーは砂漠で若いカップルと出会いカーレースをすることとなるのだが、なんやかんやあって彼氏の男と言い争いになる。ついには掴み合いのケンカに発展するが、男はリーダー格のヴァーラにチョップで首をへし折られ殺害される。一部始終を目撃していたガールフレンドのリンダは失神してしまい、殺人を犯した女ダンサーズは彼女に睡眠薬を飲ませ人質として連れていくことにする。そして、彼女達は立ち寄ったガソリンスタンドで町外れに息子二人と暮らしている足が不自由な老人が大金を隠しているとの噂を耳にし、彼の金を強奪しようと計画を立てるのだがその一家も曲者だった…という内容。
ほとんど変な奴しか出てこないし、話もスットンキョーであらすじを書き出しても、どこがどう面白いのかを説明し難い風変わりな映画だ。卑猥なタイトルのキッチュなエクスプロイテーション映画だが意外なことにセックスシーンもヌードもない。全編に渡ってマッドなゴーゴーダンサー達のバイオレンスが展開し、イカすジャズミュージックを流しながらとにかく巨乳を映すという画期的な作劇が為されているため終始女の胸と尻に釘付けになってしまう。
百合豚としては、この野蛮なチーム女子映画に萌えを感じないこともない。リーダーのヴァーラは挑発的な口調の字幕とILLな高笑いがよく似合うマッドガールだが、信頼のおける姉御気質という訳ではなく他のメンバーからもその狂暴さを恐れられている。ヴァーラに従順に従うロージーの忠犬っぷりや、失態を犯しては仲間に怒られる奔放なビリーといった対等でないチーム内ヒエラルキーを感じる関係性も好き。人質として捕らわれた育ちの良いリンダがビクビクと怯える姿が小動物的で不憫に映り、ヴァーラがイライラするのも親父がちょっかい出したくなるのもわかる。私としては、会話のなかからロージーがヴァーラを慕っていることが仄めかされ、終盤、彼女が暴走するヴァーラを心配そうな表情で見つめる場面など、なんとも切なく感じられた。
農場の家族は自分達の金を狙う悪党三人娘を家に招き入れてしまうのだが、大金を隠し持つ親父は度を越したミソジニスト。若い娘絶対殺すマンなのである。次男のベジタブルは筋骨粒々マッチョだが発達障害があり、理性的でマトモなのは本好きの長男だけ。車椅子に乗った偏屈な老人が強靭な肉体を持つ息子と暮らしているところや、彼等が過去に実際に殺人を犯していることを匂わせる言動をするところなんかも『悪魔のいけにえ』など70年代スラッシャーを思わせる設定。この家族は被害者という立場なのに、結局のところどっちが悪者なのか微妙な存在である。彼等がゴーゴーダンサーたちを昼食に招待し、両陣営すべてのキャラがテーブルを囲いフライドチキンを食べながら互いに会話で牽制し合うのだが、善悪の分別ができないベジタブルや酒に酔った親父から時折本音や真実がポロッと溢れそうでハラハラ。隙あらば逃げ出しそうなリンダを余所に彼女の隣で呑気に食事会に興じるビリーにも、また面倒事を増やしてヴァーラに怒られるんじゃないかとこれまた色んな意味でハラハラ。ツッコミ不在のコントのようだ。その席で父親が過去に若い女性を助けようとして誤って列車事故に遭い半身不随となったために女性を嫌悪していることや、巨躯で知恵遅れの次男ベジタブルを嫌っている理由が語られ、世話をしてくれる実の息子のことすら恨み続けている彼の執拗で利己的な狂気にゾクッとさせれる。
はたしてこの物語はどう着地するのか!?といっても、とてもじゃないがこんな奴等にろくな結末が用意されているわけなどなく、彼等の行く先に待っているのは破滅。終盤では罪深い奴等が順当に死んでいくのだが、そこにはメッセージ性など皆無で、伝わってくるのはニューシネマともフィルムノワールともまた違う竹を割ったようにサッパリとした諸行無常感である。

序盤に登場するガソリンスタンドの従業員が本当にいいキャラ。ロブゾンビの『31』にも同じようなオヤジが登場したが、若い女にデレデレしながら接客する品の悪さや、客が忘れていったクーポンを「俺のにして貯めておこう」と言ってフェードアウトする小市民感も可愛いらしい。度々映画に登場する彼等はアメリカのガソリンスタンドという魔境に住む妖精なのだろう。